萌芽

羊たちの沈黙の萌芽のネタバレレビュー・内容・結末

羊たちの沈黙(1990年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

この作品の見どころは、何と言っても彼、ドクター・レクターのアトラクティブなキャラクター像にある。

レクターの予備知識が全く無いまま本作品を観た場合、我々はクラリスと共に、彼との初対面を迎えることとなる。一番奥に監禁されている、かの有名なハンニバル・レクターとは、一体どれ程悍ましい怪物なのだろうか、と。

そして我々は、これまたクラリスと同時に、予想外の彼の姿に面食らうこととなるに違いない。そこに待ち構えていたのは、恐ろしい顔をした怪物なんかではなく、非常に知的で、それでいて魅力的な一人の人間だからだ。彼が覆す余地もなく異常であることを忘れさせてしまうのは、我々の初対面が、猟奇殺人犯としての彼ではなく、このシーンであったことによる部分も大きいだろう。彼が醸し出す気品さ、知性、鋭い観察力、推理力、語りかける表情、芸術への関心、類稀なる絵の才能、それら全てが我々を惹きつける。それでいて、彼の孕む狂気性がその魅力をより一層引き立てているのではないだろうか。

あともう一点、特筆すべき点があるとするならば、タイトルのネーミングセンスだ。内容を全く知らずにタイトルのみを見た場合、羊が作中にメインで出てくるのだろうか?と安直に考えてしまう(電気羊のような……)。だが、本作品に羊は一度も出てこない。にもかかわらず、「羊たちの沈黙」が意味するところの重要さを、作品を観た我々は必ず理解することとなる。これ程に、タイトル自体に意味を持たせることができる作品は、中々無いだろうし、また意味を理解する前であっても、何となく字面がかっこよくて、記憶に残る一文であると、個人的に気に入っている。

暫く、アンソニー・ホプキンスの作品を追う日々が続きそうな予感がする。
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