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羊たちの沈黙のEyesworthのレビュー・感想・評価

羊たちの沈黙(1990年製作の映画)
4.9
1991年にジョナサン・デミ監督が主要キャストにアンソニー・ホプキンス、ジョディ・フォスターを迎えて作られたサイコホラーの名作。原作はトマス・ハリスの同名タイトル『羊たちの沈黙』とのこと。

FBI訓練生の若き女性クラリス・スターリング(ジョディ・フォスター)が何人もの女性の皮を剥ぐ猟奇的な連続殺人犯に及んでいる通称バッファロー・ビルの捜査のため、何年も前に同じく女性の連続殺人で逮捕されたハンニバル・レクター博士(アンソニー・ホプキンス)に協力を求める。最初こそ狂気に満ちており、それでいて思慮深い元天才精神科医である彼とのやり取りに気を揉むが、次第にクラリスが私的な過去のトラウマを明かすことで、殺人犯の捜査に協力的になって、至る所でヒントを提供する。そんなレクター博士の示唆に富んだ言葉を元にクラリスは殺人犯バッファロー・ビルという人物と真相に辿り着けるのか…?というストーリー展開。

この映画で圧倒的な存在感を放つハンニバル・レクターという人物は終始この作品のキーパーソンとして鑑賞者の目に映るが、実は2時間弱のこの映画に約12分間しか出演していないことを知り驚いた。短い時間であの脅威の怪演を見せたホプキンスの面目躍如たるや。そして主人公クラリスを演じたジョディ・フォスターだが、当初監督は彼女ではなくミシェル・ファイファーやメグ・ライアンら他の女優にオファーしたようだが、脚本がヤバすぎるという理由でどちらにも断られ、フォスター本人からの熱心なラブコールもあり、出演を射止めたようだ。その結果トラウマを抱えながらも人一倍の正義感をもって強くあろうとする女性FBI捜査官を見事に演じ、彼女の出世作になったのだから流石持っているスターだと言う他ない。この2人の目には見えない独特の連帯(絆)がこの映画の核であった。
主題の「羊」は、クラリスの脳裏に刻まれている、過去の牧場の小屋で痛めつけられ、大きな声で鳴いている救いきれなかった羊達であり、それを今回の事件の被害者達に重ね合わせ、今度こそ自分が哀れな羊たちを救ってみせることで「沈黙」を取り戻すという、他者救済であり自己救済の物語なのだろう。どんな勉強や練習よりも皮肉にも過去に受けた傷が己を強くする。精神というのはどう転ぶかわからない点が本当に面白い。
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