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ある子供のnetfilmsのレビュー・感想・評価

ある子供(2005年製作の映画)
4.3
 ダルデンヌ兄弟は映画で若年失業者の問題と深く向き合ってきた。『イゴールの約束』では自動車整備工になる夢を持ちながら、父親の関係で嫌々不法移民の斡旋をする主人公を通して、環境から這い上がることの難しさをシリアスなタッチで描いていた。『ロゼッタ』ではキャンプ場のトレーラーハウスでアルコール中毒の母親との2人暮らしを送る1人の少女の姿を通して、ベルギーの貧困や限られた求人を奪い合う若者たちの行き場のない苛立ちを描いた。『息子のまなざし』では11歳の時に殺人を犯し、5年服役し職業訓練所で働く少年を通して、技能を獲得しなければ生活していけない少年の状況を冷静に見守った。今作は大人になりきれないまま子供を産んでしまった一組のカップルの姿を通して、ベルギーの貧しい経済状況や貧困のスパイラルの中にいる若者たちを冷静に描写する。

 冒頭、1人の女性が赤ん坊を抱えて旦那さんの姿を探している。アパートに行くがあっけなく追い出され、路上に出てみると彼は道行く自動車の運転手たちに、小銭をくれないかと物乞いをしているのだった。彼の中に子供が生まれたことの感動など微塵もなければ愛着もない。出産の準備も立ち会いも一度もしないまま、仕事もせずに物乞いをしている男とそれを咎めない女。この時点で彼らの行く末を案じ、暗澹たる気持ちになる。前半部分では男女が無邪気にじゃれ合い続ける。川辺の場面では女が男の背中を押し、草むらの場面では女が男に炭酸を浴びせて追いかけっこになる。お揃いのジャンパーを買った時も、着る着ないでしばらくじゃれ合っている。どこか空虚で実感を伴わない彼らの楽天的なムードが、人身売買の場面を境に一変してしまう。数ある人身売買の手口の中でも最も残酷なのは、親が子供を売り渡すことだろう。しかも男は女に相談もなく、勝手な自分の判断だけで子供をあっさりと売ってしまう。軽いショック状態になって病院に担ぎ込まれた女の気持ちは察するに余りあるが、ここで男は女に絶縁され、クライマックスまではほぼ男女の間に会話はなく部屋の扉は閉ざされたままで、映画の後半部分は男の単独行動が続いていく。

 映画の中には何度も改心のチャンスはあったが、彼には学もなければ技能もなく過酷な現実に押しつぶされるしかない。ダルデンヌ兄弟はここでもラストに救いの手を差し伸べるが、それ以上の押しつけがましい感動を用意しない。おそらくカップルにも生まれてきた子供にもこれから待っている未来は決して明るくない。それでも最後にフレームの中に収まる若いカップルの姿に我々は頑張れと声をかけてしまう。
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