KnightsofOdessa

トルパンのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

トルパン(2008年製作の映画)
4.0
[ヘタレはどこまで行ってもヘタレである] 80点

最新作「アイカ」が嵌ったのでドヴォルツェヴォイのデビュー作である本作品も観てみる。監督本人の発言で知ったが、アイカ役の疲れ果てた谷村美月…じゃないサマル・イェスリャーモヴァは本作品にも登場していたのだ。うむ、確かに24歳にして肝っ玉母さん感が厳ついな…アッサ本人も柄本時生に似てるから凄い兄妹であるに違いない。

ロシア海軍からカザフスタンのど田舎に出戻ってきたアッサは妹サマルとその夫オンダスのユルトに居候している。そんな彼の夢は羊の群れを所有して自分の住まいを持つことだが、羊の扱い方はいまいちパッとしないし、第一結婚していないからオンダスが羊をくれない。近くにいるユルトは三つしか無く、唯一結婚していない娘トルパンはアッサを"デカ耳"と呼んで全く興味を示さない。そりゃお見合いの場で"タコを見た"とか言われても困るよね。

手持ちカメラの長回しで構成されているが、ベーラ・タルやラヴ・ディアスのように画面に拘っている感じはそこまでしない。本作品の"カザフステップの情景がなんもないだだっ広い空間でそもそも美しいからそれを掬い取りました"みたいなスタンスなのはどう評価すべきなのか。空間が広いので勿論ロングショットは光るし、長回し故の緊張感もいい方向に仕事をしている。生活が厳しいのは一瞬で分かるので、画に魅せきる力もある。気に入った点としては風の撮り方が実に美しいということ。カメラの位置がちょうど目線のとこにあるので、確かにそこに私がいたという感覚があって「アイカ」と同じく大好き。カメラマン同じ人やし。
ただ、会話の切り返しが存在せず、手持ちのカメラごと振り返って話者を見る、を繰り返すのはあんまり好きじゃない。佐藤二朗か。

全然仕事をせずに夢ばかり語るという完全にアイカと真逆な存在であるアッサ。オンダスからもトルパンからも軽蔑される有様。末は偶然羊の出産に立ち会ったことから調子に乗ってトルパンに会いに行くが彼女は消えた後だった。オンダスがステップから引き上げる日、彼もまた夢を諦め、行くあてのない旅を開始するのだ…と思いきや一瞬で止める。どこまでもヘタレだった。

羊を乗せたくない馬が微妙な速度で逃げてるとことラクダに追われてる医師には笑えた。あと、サマルさん歌うますぎ&可愛すぎ。10年後に雪のモスクワを這いずり回ってるとは思えない。
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