ベビーパウダー山崎

ウディ・アレンの重罪と軽罪のベビーパウダー山崎のレビュー・感想・評価

4.0
マーティン・ランドーの愛人殺しの話とウディ・アレンの売れない映画監督の話、二本を一本にしているのが閃きというか剛腕というか。なんならアラン・アルダの成功している俗な表現者からも切り込めるし、志高くても安い男にあっさりと傾くミア・ファローや妻子ある男を愛したがために人生を壊されたアンジェリカ・ヒューストンからも物語として描ける。アレンは各々のドラマをサラッと見せているけど、これだけキャラクターが立つと逆にそのバランスを取るのは結構難しいし、アルトマン辺りの群像劇とはまた全然違う、それぞれの「人生の選択」を映していくアレン。ロリコンで小男だけど偉大な作家。
ドストエフスキー『罪と罰』のアレン版。たとえその行為が悪だとしても、犯した罪を裁くのは神で、我々ちっぽけな人間が誠実に生きようと自分勝手に愛人を殺そうと、その結果は運任せ。善人が報われるわけでもないし、悪人が型通りに酷い目に合うわけでもない。リアルの人生は不条理で理不尽。最後のランドーのセリフ「ハッピーエンドが見たいなら映画館に行け」。その通り。
スヴェン・ニクヴィストのキャメラだからなのか、どうしてもベルイマンが影のようにそこにはいて、ランドーが『野いちご』のシェストレムに見えてきたりも。どのエピソードも面白いもんなあ、ランドーとゴロツキの弟との関係性とかゾクゾクしない?ラストの人生訓みたいなのは蛇足だと思うけど、あれがあるから大衆も金を出せる娯楽に仕上がっている。ノア・バームバック『ヤング・アダルト・ニューヨーク』とかホン・サンスがよく描く商業作家になり切れない映画監督の苦悩とか、あの辺りの源流。