うえびん

おとなのけんかのうえびんのレビュー・感想・評価

おとなのけんか(2011年製作の映画)
3.3
ズルズルズレる

2012年 フランス作品

舞台はニューヨーク、ブルックリン。だけど、ずっと家の中で繰り広げられる会話劇なのでニューヨーク感はあまりない。11歳の少年同士の喧嘩の後、加害者側の両親が被害者側の両親の家を訪れて話し合う。いや、いがみ合い、蔑み合い、罵り合う。

リベラルな知識層のロングストリート夫妻と、弁護士と投資ブローカーという裕福なカウアン夫妻。冒頭から漂ういやーな空気、空気を読まない、読めない発言。カウアン夫妻は、食べ物も遠慮したり、時間にも配慮して、早く帰りゃあいいのに帰らない。ロングストリート夫妻は、早く帰ってもらえばいいのに帰さない。

ひたすら続く茶番劇はコントのようで、デフォルメされたキャラクター設定、それを熱演する俳優陣の演技はさすがと唸らされる。最初は、身の回りにもいそうな夫婦だったんだけど、ケンカがヒートアップするにつれ、感情が剥き出しになると、さすがにここまでの人は中々いないよなぁと。

子どもvs子どものけんかが、親(2)vs親(2)になり、夫(1)vs妻(1)になったり、男(2)vs女(2)になったり。ケンカの攻守や相手が入れ換わり、立ち替わり目まぐるしく展開するのは面白かったけど疲れた。

アメリカの文化人類学者エドワード.T.ホールの提唱した「ハイコンテクスト文化」と「ローコンテクスト文化」を考えさせられた。

ハイコンテクスト文化は「空気を読む文化」で、前提となるお互いの文脈(言語や価値観、考え方)が近くて、コミュニケーションの際に互いに相手の意図を察し合い「以心伝心」でなんとなく通じてしまう。日本文化は、ハイコンテクスト文化の典型とされている。

ローコンテクスト文化は、「言葉で伝え合う文化」で、前提となる文脈や共通の価値観が少なくて、コミュニケーションの際に、言語で表現された内容が高い価値を持ち、思考力や表現力、論理的な説明能力やディベート力といった能力が重視される。本作に登場する4人はこちら。

近年のグローバル社会の中で、ハイコンテクストな“言わずもがな”な日本人も、ローコンテクストな言語で論理的に話して伝える能力が必要とされていることは理解しているし、自分なりに努力もしている(つもり)。だけど、この二組の夫婦のようなマシンガントークには辟易としてしまう。少しはハイコンテクスト文化を取り入れてみては?と勧めたくなる。

ドライヤーであれこれを乾かす場面が、ウェットな感情で溢れかえった場を乾かしているかのようで印象に残った。
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