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ギャング・オブ・ニューヨークのarchのレビュー・感想・評価

4.0
『エイジオブイノセンス』から8年程度が経ち、再びダニエル・デイ=ルイスを出演させ、新世代のスコセッシの相棒としてのレオナルド・ディカプリオの初主演作品。
とにかく世界観を構築する衣装と美術が素晴らしい。
衣装はサンディ・パウエル、美術はダンテ・フェレッティ。衣装に関しては、19世紀末アメリカを感じさせるだけでなく、ギャングの抗争を主軸に置くが故のダーティーな汚しが随所に施されていて、文明発展による絢爛さに西部開拓時代の汚濁が入り交じる混沌ととした雰囲気が表現されていた。
美術は『エイジオブイノセンス』からの続投で、見ている最中も絶対同一人物だと確信しながら観ていた。
本作はイタリアのチネチッタにニューヨークを完全再現したセットを作り撮影したということらしい。途中『アメリカの夜』みたいな広場の俯瞰ショットがあったりして、セット特有の広場の感じがそうさせたのだとは妙に納得していた。
冒頭の洞穴?みたいな場面からの雪景色の都会未満のニューヨークへと移って行く場面がまず以てこの映画に惹き付けられるところだろうが、そのセットの迫力はこの映画の特筆すべきところだろう。

そういった世界観の構築で描かれるのは南北戦争下のニューヨーク。徴兵を強制される移民、リンカーンへのヘイト、過激な黒人差別など、様々な要素が奴隷制廃止後の戦時下の混乱を感じさせる。そして本作はスコセッシらしく、ギャングに焦点を当てる。旧友たるスピルバーグなんかは同時代を描く時に『リンカーン』や『アミスタッド』のようになるのだからテーマ選びから個性が出ているなと笑ってしまう。
ギャング、それもネイティブズだと自称する彼らはリンカーンを嫌っているし、移民(アイルランド人)を蔑んでいた。ニューヨークという街に移り根付いたイタリア系アメリカ人を中心に撮ってきたスコセッシが、敢えてそういった者達に焦点を当てたのは、未だ"建国"の匂い漂う時代に移民達が何と闘い、居場所を確立してきたのかを描きたかったという意図があったのだろうと推測する。スコセッシの祖父母の時代に、どうアメリカに移り生きてきたのか、それがある種のオーバーラップをするように。
ニューヨークという全ての人が他所からきた街、言ってしまえば移民の街を移民視点で撮り続けてきたからこそこの黎明期のニューヨークを撮ることは、スコセッシのフィルモグラフィにおいて必要なことだったのだ。(いつもはNYで撮ってるのに今回はチネチッタで撮影している辺りが皮肉)

ストーリーに関して。
ギャングの抗争によって父を失った主人公アムステルダムが、仇であるビル・カッティングに取り入り復讐を遂げようとするという話である。
前半は、復讐するために懐に入るが擬似親子的な関係にどこか居心地が良くなり、心乱されていくパート。
後半は、実はヴァロン神父の息子だとバレてて、追い出されてからビルと直接対決する流れ。
前半のビルに認められていき、復讐と擬似親子的関係が天秤に載せられている感じが作劇の根本的なら推進力なはずだが、正直そこは形骸化している。ダニエル・デイ=ルイスのカリスマ的演技に観客が魅了されるのとアムステルダムが彼に心を許していく様が同期していて魅力的ではあるのだが、じゃあ実際その天秤の揺れが作劇に効果的に作用しているのか、つまりサスペンスになっているかというと微妙。色々理由はあると思うが一番はジェニーとの三角関係が前景化したこと。星条旗を纏ってベッド脇にいるシーンは凄く良かったシーンだが、じゃあそれがある種のエディプスコンプレックスなのかというと違うだろう。
結局、その天秤は彼の正面からナイフを投げるという愚策によって失敗し、しっかりビルにバレてしまうことで消失してしまう。

そこから後半への繋ぎもかなり雑。彼がデスラビッツとして、父を継承していくというのはいいのだが、彼に賛同する者たちのぽっと出感が否めない。アムステルダムが救った黒人の仲間も人知れず殺されていたりと、キャラクターの扱いが強引。3時間近くありながら、尺が足りてないという印象になるのは、キャラクターの配置が下手だからという気はする。
ともあれ、衣装とセット美術、そして主要キャストの存在感によって物語は強引に牽引されていき、ビルとアムステルダムの決着を迎える。白煙の中での死闘も面白いし、この映画特有の若干コミックっぽい雰囲気だからこそ成り立つアクションシーンになっていたと思う。

この映画は少し俯瞰で見るのなら2つの戦争が見えてくる。南北戦争とニューヨークでの移民vsネイティブの戦争。
ニューヨークは本来戦場になるはずもないのに、だが、そんな場所で戦争は起こっている。シビルウォーと別のシビルウォーが重なり合っていて、それが最後混沌を生み出している。最近観た『福田村事件』がそうであったように、カオスの中で差別意識は暴力と簡単に結びつく。あの自国で起こった虐殺を平気で描けるのがやはり海外製の映画を羨んでしまうところ。
あの移民の勝利が、その後のニューヨークを形作っていくというのを現代へとスライドしていくディゾルブするNYの風景で表現しているも好き。

総評として、前後半の繋ぎに不満を感じるし、3時間弱の物語の達成感はないと思いつつも、ビジュアル的にもメッセージ的にも大変満足できる作品だった。
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