KEKEKE

ギャング・オブ・ニューヨークのKEKEKEのレビュー・感想・評価

4.0
- かなり好きなダニエル・デイ=ルイスだった
- 彼の俳優としての狂気はこの辺り(40-50歳にかけて)をピークに落ち着き、その後は徐々に成熟した演技へとシフトしていっているように思える
- この10年後にリンカーンを演じるほどに、アメリカはこのアイルランド人に自国のスピリットを投影し、政治的、宗教的な偶像として称揚している訳だけど、人種的なルーツや信仰の齟齬はこの国にとってそれ程些細な問題なのだろうか
- 西洋人にとって中国人も日本人も、一様に東洋人であるように、作中に登場するアイルランド人とアメリカ人の識別が私たちにはできない
- しかしアイルランド人がアメリカ大統領を演じるときには、例えば日本人が始皇帝を演じたり、中国人が伊藤博文を演じるような違和感は発生しないのだろうか
- むしろその人種的な代替可能性こそ、アメリカが争いの歴史により勝ち取った超克の象徴なのだろうか
- ここらへんの感覚は勉強しないと永遠にわからないんだろうな
- 確かにその違和感は、今作でも描かれるネイティブが移民に対して抱く疑心暗鬼に通じる、根深くネガティブなナショナリズムに支えられているようにも思え、その過ちを繰り返す行為にもなり得る
- 国のために戦った彼らのナショナリズムは、当人たちにとってはどちらも正義であり、それが結果的にさらに大きなナショナリズムによって抹殺されたことも含めて、なにが善であるかをその時代に判断することは困難なのだろう

- 民主化の最中で山積する課題やありとあらゆる権力争いの末、内戦にまで及んだアメリカの混乱を、1人の青年の憎しみに端を発したニューヨークの歴史として切り取った
- 正直宗教や地政学的な情報を処理するのに精一杯で、映画を100パーセント楽しめたとはいえなかった
- ただ、ニューヨークにかつて存在した差別や虐殺や貧困を、ファイブポインツに暮らしていた悪人や善人を、誰も透明化せずに描こうという、ヒッチコックの意思を感じた
- そして良くも悪くも、至極映画的なストーリーテリングにそれらの人物を昇華し、最後の2人の決闘では待ってましたと言わんばかりの、極力最大のカタルシスをもたらすような構成になっていると感じた
- でもそれでいいだろ、映画なんだから

- 偶然運良く、直前にスピルバーグのリンカーンを観ていた
- 民主主義的な歴史の観点から見るか、当時徴兵の対象となった市民の視点から見るかで、リンカーンの描き方が真逆になるのが面白い
- スピルバーグのリンカーンは修正第13条を成立させるまでに行われた遅延の尊さをホワイトハウスから描き、ヒッチコックはその間に徴兵され殉職した兵士や、暴動によって死んだ名もなき市民たちをスラムから描いた
- 彼らは民主主義の為の尊い犠牲なのだろうか、奴隷解放の為に必要だった死なのだろうか
- その死に意味などないからこそ、死はただ死であるからこそ人間の生は美しいのだと、ニューヨークの血が染み込んだ土地に思いを馳せる映画だった
- 信念を持って生きた者たちが死に、その後を生きるものたちがその意思を受け継ぐ
- 誰かの生き様が死後も生き様として残る
- その蓄積の結晶が今摩天楼を擁立させている
- 確かに怒りっていつのまにか忘れちゃうんだよな
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