故ラチェットスタンク

恐怖の報酬の故ラチェットスタンクのレビュー・感想・評価

恐怖の報酬(1953年製作の映画)
4.4
これを観たあとにフリードキン版を思い返すとあの作品が如何にダイナミズムに依存しきった支離滅裂で出鱈目な(のに成立している不可思議さを持っていた)産物だったかが分かる。それほどまでに、丹念で緻密な積み立てがあり、計算されたサスペンスが続いていく脚本となっている。ガラガラと崩壊する木組みの建築物や石が降ってくる場面の恐怖、ラストのクラッシュなど絵的な練度もフリードキン版に全く見劣りしていない。キャラクターの権力関係の逆転やあるいは一時的な運命共同体としての友情の描写などもずっと観ていたい多幸感。過酷さの乱れ打ちによる馬力の高さはフリードキン版のアドバンテージで、あれこそが決定版に思ったが練度の高い緩急がジワジワと効いてくるクルーゾー版を観た今となっては揺らいでしまう。どちらも完璧な解答。映画というフォーマットの特性を120%引き出しているので甲乙はつけられない。映画の在り方は一つではないと今一度。素晴らしかった。