TaiRa

ニンゲン合格のTaiRaのレビュー・感想・評価

ニンゲン合格(1999年製作の映画)
5.0
黒沢清版『砂漠の流れ者』だった。哀川翔から役所広司への移行期にちゃんと共演作撮るの律儀だなって思った。

10年間昏睡状態だった24歳の西島秀俊が「失った人生を取り戻す」話。だが、人生は取り戻せるものなのか、そもそも人生ってなんだ、ってとこまでふわっと描いてしまう。中身も格好も動作も、全てがただの中学生な西島が良い。彼のボサッとした感じがガキっぽさにマッチする。大人なのに子供に見える芝居のアプローチが上手い。場面を省略しながらポンポン進める事でギャグとして機能する作り。役所広司に引っ張られる西島のアクションもバカバカしくて良い。ドリフのコントからオフビートギャグ漫画みたいなノリまでやってて愉快。10年の間に離散した家族を再び一つにする話、と言えばそうなのだが全然ウェットに描かない。西島が実家で牧場を再開しようとするだけで人が集まっては去り、また集まっては去る。そうやってバラバラになった家族4人それぞれの人生がある一瞬だけ交差する時、初めて家族の4ショットが成立する。その穏やかな時間。それを見ていた部外者の哀川翔が静かに暗闇に消え、西島もそれを見届け、再び一家が離れ離れになる流れが素晴らしい。西島と役所の最後の会話も端的にテーマを表していたし、要所要所で良い会話がある。夢のように一瞬でも、確かにそこに実在したのなら、それは人生と呼べるよ。
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