にじのすけ

ヴァンパイアのにじのすけのレビュー・感想・評価

ヴァンパイア(2011年製作の映画)
3.2
”ヴァンパイア”というオブセッションに取り憑かれた男・サイモンを基軸に、血や美しい少女、白い風船といったシンボリックなエレメントを配し、それらを儚くも瑞々しい映像におさめた、岩井俊二監督による、一種の映像詩。
自殺志願者の血を抜き取って飲用に供しようとするサイモンはしかし、それをすぐ吐き出してしまう。ネットのオフ会で知り合ったらしき”ヴァンパイア”マニアのサイコパスは、旧来のドラキュラばりに女性を拉致し、嬲り殺し口を血だらけにして首筋から吸血する。その様を汚らわしいものとして嫌悪するサイモン自身は、優しいサイコパスなのか、それとも本物のヴァンパイアなのか?その答えは明かされることなく、唯一ラスト近くで、この物語全体がサイモンの夢の中で展開された、一種の理想郷もしくはディストピアなのでは?ということが、なんとなく暗示されて幕を閉じます。
心優しき吸血鬼、といえば「クロコダイルの涙」のジュード・ローや、近作(13年10月)の「ビザンチウム」を思い浮かべますが、本作はそれらのような明確なモチーフを持ちません。「雰囲気だけの映画」といってしまえば、それまでなのですが、今までの岩井作品が持つ静謐さや独特の映像美学がお好きな方なら、一見の価値はあるかもしれません。
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