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007/黄金銃を持つ男のStroszekのネタバレレビュー・内容・結末

007/黄金銃を持つ男(1974年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

太陽光エネルギーを作劇に盛り込こんでいる。コネリー版ボンドまでは放射能が万能装置のように扱われていたが、クリーンエネルギーに世間の関心が移ったのだろうか。

一人につき100万ドルの報酬を受け取る暗殺者スカラマンガに、007が狙われているという情報が入る。しかし真の標的は彼ではなかった。スカラマンガを雇ったハイ・ファットという大物実業家と、「太陽放射能を産業レベルで電気に変える装置」ソレックス・アジテーターを巡る陰謀に、ボンドは巻き込まれる。

007物には珍しく、悪役の紹介シークエンスが長い。スカラマンガを演じるのがクリストファー・リーだからかもしれない。彼の従者ニック・ナックを演じる小人症の俳優もいい味を出している(作中では"midget"と呼ばれている)。スカラマンガは来るべきボンドとの対決に備え、暗殺者に自分を襲わせ迎え撃ちにする訓練を自らに施している。彼のカラクリ屋敷の仕掛けに惑わされ、暗殺者は返り討ちに遭って死ぬ。スカラマンガは、なぜかボンドに共感と敬意を覚えているのだが、そのきっかけは描かれないので理由はよく分からない。

香港とバンコクが舞台。

香港の女性が卓の真ん中に正座し、客に酒をサーブするときは尻を上げるバーの名前が「ボトムズアップ」。なんというか、女性の身体のオブジェ化が著しいシリーズの面目躍如(?)だ。

ハイ・ファットの屋敷にテラテラと安っぽく光る相撲のオブジェがあり、「香港と日本を混同してる…」と思ったが、彼が相撲取り好きなだけだったのかもしれない。

とか思ってたら、オブジェの相撲取りが動き出したので笑った。思えば、冒頭で出てきたスカラマンガの隠れ家にも、生き人形オブジェがたくさんあった(アル・カポネやボンドを含む)。

力士と格闘している間にニック・ナックに後ろから襲われたボンドが目を覚ますと、民族衣装を着たアジア人(タイ人?)女性たちにマッサージを受けている描写がある。アジア人女性による白人男性の接待っぽい描写が挟まれるのは、『007は二度死ぬ』に続き二作目だ…と思ってたら、MI6香港支局の現地人大尉の姪たちが、空手家たちをバッタバッタと薙ぎ倒す空手ガールズでかっこよかった。

川でのボートチェイス場面で、なぜか前作のペッパー保安官が観光客役で再登場(ピンクレディのペッパー警部の元ネタか?)

ボンドに恋焦がれるMI6香港支局の女性エージェント、グッドナイトに007が「ドレスの下には自殺用の薬か?」と聞いている点に、スパイ生活の過酷さが現れている気がした。

グッドナイトとスカラマンガの愛人が、007の部屋で鉢合わせする。愛人に「彼を殺して」と言われた007が、ソレックス・アジテーター目当てで愛人と寝る。彼女がいるあいだ、クローゼットに隠れていたグッドナイトにボンドは、"Your turn will come, I promise"(「君の番も来るさ」)と言う。ボンドと寝るために女性が列をなしている、という描写がヤバい。しかし確かに、サファリシャツを着たロジャー・ムーアがかなりいけてることは確かだ。

スカラマンガは強敵という感じがする。ボンドに追いかけられ逃げ込んだ納屋で、車にプロペラ機を付けて飛び立つ場面がある。前作でボンドがプロペラ機の羽を扉にぶつけて折ったのを考えると、スカラマンガ+ニック・ナックのコンビが一枚上手だ。

007の敵役は権力者や大富豪で、山や島を持っているという法則がここでも当てはまり、ボンドはスカラマンガの住む孤島に誘い出される(暗殺一人につき100万ポンドの報酬なので、スカラマンガは当然金持ちである)。

ここでスカラマンガは、ボンドに決闘を申し込む。そして冒頭の暗殺者とスカラマンガのやり取りをトレースするかのように、からくり屋敷でのボンドと彼の命のやり取りが始まる。巧みな構成だと思う。

グッドナイトが自身を襲おうと狙う作業員を自力でやっつけるが、「ヘリウムの温度が上がったら大爆発だ」とボンドに叱責される。ボンドが必死で爆発を阻止しようとするなか、グッドナイトは屈んだ際にお尻で爆弾のスイッチを押してしまう(「ハズキルーペのCMか!」と思ったが、こちらが元ネタかも)。女性がプロフェッショナルな男性の仕事を邪魔する無能として描かれており、「コネリー版でもこんなに女性表象は酷くなかったな…」と思った。

最後、退場する船上でグッドナイトといちゃついているときにベッドサイドから電話が迫り上がってくる。Mから電話がかかってきて、"Something came up"(なんか上がってきたぞ/ ちょっと用事だ)→Mが「グッドナイトに代わってくれ」と言うがボンドはいちゃつきを中断しない→「グッドナイト、グッドナイト」と呼び続けるMに"Good night, Sir"とボンドが言って電話をガチャ切り、という終わり方。なんというか、このシリーズらしいダブルミーニングだ。

前半でボンドが寝た女性が死に、そのあとにもう一人の女性が現れボンドは彼女と退場する、というフォーマットがあるんだな、と今作で気付いた。最後に二人目の女性が死ぬという悲劇的な結末なのは、ここまでのところジョージ・レーゼンビー版だけである。
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