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カルメン故郷に帰るのほーりーのレビュー・感想・評価

カルメン故郷に帰る(1951年製作の映画)
3.9
【木下惠介特集③ 下世話なものほど人は群がる】

デジタルリマスター版を観た。あまりの発色の良さに見とれてしまった。

真っ青な空の中、白い煙をはく浅間山と白樺林、緑の大地に、目の覚めるようなリリィ・カルメンの真っ赤なドレス……。

日本初の本格的カラー映画ということで、どの色が発色がいいか手探りだったのだろう。高峰秀子扮するカルメンやマヤ役の小林トシ子のみならず、コメディリリーフの三井弘次まで服装がド派手だ。

本作品、初のカラー映画ということで、失敗したときの保険として白黒版も別撮りしたことでも有名で、今発売されているBlu-ray版に収録されているが、こちらはまだ観たことない。カラー版より面白いという評判もきくけど。

でも初のカラーって大変だったんだなあと、オープニング・クレジットに出てくるスタッフの人数の多さからしてよくわかる。それだけ万全な体制でこの大プロジェクトに望んだのだろう。

コメディなので作品は全体として明るいのだが、ちょっと勿体ないと思うのは出だしのオープニング・クレジットで流れる曲が、主題歌『カルメン故郷に帰る』(作曲:黛敏郎)ではなく、『そばの花咲く』(作曲:木下忠司)だった点。

のっけからあの重々しいメロディはこの作品を暗くしてしまう感じがして、あそこは『カルメン故郷に帰る』を流して欲しかった。

ストーリーとしては都会かぶれになった若者が故郷のど田舎に帰ってきたことで、チグハグな騒動を起こすというもの。

当時、大流行していたストリップに木下監督がいい印象を抱いているとは思えない。

本来ならば佐野周二が演奏する『そばの花咲く』の方が芸術であり文化なのだが、結局、大衆は下世話なストリップの方を支持していくという人間の本質を突いている。

個人的に好きなのは運動会の場面で、興奮した丸十の親父(演:見明凡太郎)がハチャメチャな指揮をするのはベタだけど笑っちゃう。

それにしても高峰秀子の演技の幅の広さに驚かされる。その他の映画では聡明な女性役が多いが、本作では見事に頭がパーなリリィ・カルメンを演じきってる。

あと楠田浩之っていい撮り方するなぁ。木下監督の妹の旦那さんだから起用したんじゃなくて、本当にいい映像撮るから起用したのがよくわかる。

■映画 DATA==========================
監督:木下惠介
脚本:木下惠介
製作:月森仙之助
製作総指揮:高村潔
音楽:黛敏郎/木下忠司
撮影:楠田浩之
公開:1951年3月21日 (日)
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