おむぼ

ZOOのおむぼのレビュー・感想・評価

ZOO(1985年製作の映画)
4.2
 エロスとタナトスの情に基づいた執着から、シンメトリーや「A」ppleから「Z」ebraまでの順番という記号の執着まで詰め込まれ、人のこだわりの良し悪しが十分に表現されている映画だった。

 クローネンバーグ監督の『戦慄の絆』と似た話の構造だと思ったが、あちらは登場人物が偏執狂のドラマと思える。
こちらは登場人物だけでなく映画そのものが偏執狂のように見えた。
カメラは長回しが基本でシンメトリーの配置にこだわった引きの固定だったり、登場人物に合わせてひたすら横移動し続けることがそう感じさせた。
そして何より、物語が場面転換する幕間に動物腐敗タイムラプスビデオのインサートを絶対に入れるしつこさが、最も真実味を表しているように思った。
さらに劇伴は足りないものを補うように、反対に叙情的な弦楽であることが本当にいかしていた。特に開幕が退屈とは無縁のかっこ良さだと思う。

 アルバの意思決定で脚を失い手鏡投げて嗚咽する様子はすぐさまカットされて、10秒くらいの動物腐敗タイムラプスがインサート、ワニの皮って全然腐らないなと思っていたら、すっかり落ち着いたアルバが部屋で双子の頭をマッサージしている。
そんな振り切った節操の無さをおかしくておもしろいと受け入れるか、他者への共感性が足りないと見捨てるか、どちらの意見も頭の中で生まれてくる。

 そういえば、死骸が腐りゆく様子の記録といえば、九相図を思い出すけどあれは描かれた当時の世間的にも坊主の欲を捨てさせる役割らしい。
そう思うと、この映画のようにエロスとタナトスが混ざり合うのってインモラルだから禁じられしことで、だからこそ唆るのが基本だと再確認する。

 全てが完成して文字通りおそらく燃え尽きてしまうのも、純粋できれいな人間だと思えるカタルシスがあると思う。

 余談だけど、引っ越した部屋でアルバがもう片方の脚の処遇を双子に相談するくだりでの、TVから流れた動物ビデオのナレーション

but whereas the tiger stripes undoubtedly servers camouflage.

the stripes of the zebra are now no longer believed to be protected coloring.

コレ、COALTAR OF THE DEEPERSのCellの冒頭・曲中のサンプリングだった。
今までググっても言及されてなかったし、普段イヤホンで聴き覚えあり過ぎる音が劇場のスピーカーから流れてきたものだから驚いて、わりと最後まで気を取られていた。
画で語りつつ詩的な映画でそうなるのは正直致命傷だから、きっと重要なところを見逃しているはずだと思って、また見たくなっている。
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