とうじ

お熱い夜をあなたにのとうじのレビュー・感想・評価

お熱い夜をあなたに(1972年製作の映画)
4.5
体型いじられシーンが連発するヒロインを、そこまで太ってない女優さんが演じることによって、本作では脚本上には無い捩れが生み出されている。
それは一瞬喉につっかえるものの、例えばこのヒロインを本当に太っている女優さんが演じていたとすれば、モラルを超えたボディシェイミングの悪趣味さによる、ストレイトフォワードだが、浅い笑いにしか繋がっていなかっただろう(もしそれが笑えたとしても)。
しかし、全く健康な体型のヒロインが妥当でない揶揄をされ続け、彼女本人こそが自分の体重を一番コンプレックスに思っているという状況は、彼女の自己嫌悪に対する洞察に富んだ、一種の不条理なジョークと化しており、わかりにくくはあるが、興味深いユーモアにつながっているとも言える。
実際に、自分は全く太っていないのに太っていると思い込む女性は沢山いるし、そういう人々に対して他者は「全然太っていない!」と諭してあげるのが普通なのに、本作では矢継ぎ早に出会う人々がその自己嫌悪に賛同するというのは、なかなか滑稽なものとして捉えることもできる。拒食症的なパラノイアと、それを奨励するような男性的目線の不健全さを皮肉に笑い飛ばす爽やかさを持ち合わせている。
がしかし、そのジョークの形式が、本作の、頭の中がセックスでいっぱいの人々が織りなすドタバタコメディ的なノリと相性が悪いのは事実であり、それによって本質が雲隠れしてしまった本作の体型いじりに、ため息と困惑をもって反応する海外のレビューも少なくない。
まあそういう欠点はあるにしても、「アパートの鍵貸します」や「お熱いのがお好き」という2大セックスコメディを両方手がけたビリーワイルダーが本領を発揮して作っているのもあって、映画のうまさだけで乗り切ってしまっているし、結果的にとても優れたコメディになっていると言わざるを得ない。
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