あなぐらむ

ジョニー・ハンサムのあなぐらむのレビュー・感想・評価

ジョニー・ハンサム(1989年製作の映画)
4.0
ウォルター・ヒルの映画は「漢気の映画」だと想う。
本作はストーリー的には非常に単純で、「別人に生まれ変われたとして」という生まれ変わり定型のひとつだろうと思う。
いかにもこの時期のミッキー・ロークがやりそうな、ある意味ナルシズムを強く匂わせる作品ではある。
ヒル監督としては「レッド・ブル」の後、箸休め的な意味もあって撮ったのかもしれない。独自のセンスで洋画には珍しいちょっとウェットな心情/映像描写と叩きつけるようなテンポのアクションシーンで佳作に仕上がっている。当時、淀川長治さんは本作を「暗黒街映画」と表現しておられて、流石だなと思ったものである。

OPのスローモーション、テロップとシーンのカットバック、台詞のだぶらせなど、粋な序盤で見る者を惹きつけ、続く派手な強盗シーンは御大の十八番。そして、そこからアクション映画の軸線を少しずらして、ジョニー"ハンサム"の心情にきっちり入り込んで行って各キャラクターを浮かび上がらせ、ラストへの流れを作って行く。練達の腕。

キャストではやはり強烈な悪女・サニーを演じるエレン・バーキンが最高。あれだけむごい女性を演じられるなんて。
ドローンズ刑事役のモーガン・フリーマン、フィッシャー医師役の鶴瓶……もといフォレスト・ウィティカーは儲け役となった。
ミッキー・ロークはキャリア中期の脂の乗っている頃で、「死にゆく者への祈り」(これも大好き)とともにナルちゃんぶりが炸裂する良い味わいである。ランス・ヘンリクセンもいい仕事をしている。

夜のニュー・オリンズの猥雑で危険なムード、アメリカンな感じの農場や造船所を切り取る映像はどこかクラシカルでもあり、ヒル御大の敬愛するペキンパーへの憧憬が見えるようだ。撮影はマシュー・F・レオネッティ、「コマンドー」や「アクション・ジャクソン」などのベテランの職人だ。
そして音楽のライ・クーダー。「パリ、テキサス」と並ぶ非常に印象的なスコアで作品の情感を押し上げている。サントラはこの前、聞き返した。名盤である。

顔は変っても過去は消せない。そして同じように人の運命も変える事ができない。「業」と日本では言うが、決して拭い去れない匂いのようなものを、ジョニーも持っていた。彼は予め「死」を予告されて生きてきたのかもしれない。それを知っていたからこそ、ドローンズ刑事はあそこまで執拗だったのだ。「男」を描く為に、ラストはあぁいう形にしなくてはならなかった。
これはどんな映画でもウォルター・ヒルが変わらずに持っている身上のようなものである。