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ザーレンからの脱出のFilmomoのレビュー・感想・評価

ザーレンからの脱出(1961年製作の映画)
3.6
①政治犯ユル・ブリンナーが砂漠を越えて国境へと逃げるというだけの物語。劇中一度もフラッシュバックが使用されず、現在進行形の中でのみ人物が語られる。台詞も少なく、たいていは車に乗っているシーンである。冒頭で独裁者らしき人物と腹心の部下が政治犯の暗殺を企てる場面があるが、この悪役2人もその後は出てこない。ひたすら車で国境へ逃げるだけで、ロケはあるものの、当然舞台の中近東ではなく、恐らくアメリカ本土の砂漠地帯で、車の中のシーンはスクリーン・プロセスを使ったスタジオ撮り、クライマックスの砂嵐の中での銃撃戦も、その砂嵐は合成であり、低予算を強いられた製作だったことがわかる。しかし、ロナルド・ニーム監督は限られた条件の中で出来る限り映画を面白くしようと試みている。②この映画の本質は逃走劇であり、政府軍との対決ではないため、対立する「悪」の描き方が希薄である。アンタゴニスト(敵役)は一応冒頭の独裁者ということになるが、その後顔を見せないため、存在が曖昧。メンター(助言者)はジャック・ウォーデン演じる横領犯だが、彼もアンタゴニストとの対立はしない。これだけはっきりした悪役がおらず、顔のない追手だけが追撃するという映画は珍しい。道中では何度もの政府軍の襲撃があり、ガス欠になり、水がなくなり、仲間を失い、進む方角も見失いかけるサスペンスがあり、一行はその都度苦難を乗り越える。③結局、この映画を及第点にしているのはユル・ブリンナーの存在感であり、彼がどういった英雄なのか、過去に政府とどういったいざこざがあったのかなどは描かれないものの、この人の目力がすべての説得力になっている。こう考えるとキャスティングで映画の8割は決まるというのにも納得できる。
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