いののん

東京裁判のいののんのレビュー・感想・評価

東京裁判(1983年製作の映画)
4.5
東京裁判。米軍が170時間・50万フィートを超える記録フィルムを撮っていて、それが1973年に公開されたとのこと。その映像プラスその何百倍もある裁判の速記録。この厖大な史資料に、ニュース映像なども加え、どうまとめるのか。

パンフにある監督の言葉には、その行為は、「死闘だった」と記されているが、この映画の完成をみるまでには、おそらくは私の想像を遥かに超える、壮絶な死闘が繰り広げられたに違いない。なんとしても、完成させなけばならない。この事実を後世に伝えなければならない。その強靱な想いに支えられて、完成に至ったのだろうと、私は想像する。自国民の手で、この戦争に、決着をつけることができなかった日本。(仮に自国民の手で裁ける機会があったとしても、ちゃんとした裁判を行うことはできるはずもなく、東京裁判以下だったと思う、残念ながら。)

この映画を完成させることこそが、戦争体験者である小林正樹監督の決着のつけ方、監督自身が考える戦争当事者としての責務だったのだろう。A級戦犯たちが、自ら進んでは責任をとろうとしないなかで、その対として、監督の、冷静であろうとしながらもその下にある熱い気持ちが、より鮮明に伝わってくる。完成まで5年を要したとのこと。冷静と情熱と決意。渾身の277分。ナレーションは佐藤慶。音楽は武満徹。


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この映画は、大別したら4つのパートからなっている。

① 東京裁判そのもの
  (1946年5月~1948年11月)
② ①の期間の、国内の政治・人々の様子
 (例:買い出し列車/二・一ゼネスト中止)
③ ①の期間の、世界の政治
  (例:冷戦の激化/ニュルンベルク裁判など)
④ 戦前の、国内の映像(日本史)
  (1928年張作霖爆殺事件~太平洋戦争終結まで)
⑤ 戦前の、世界の映像(世界史)


この①~⑤、それぞれは年代順に進むのだけれど、①~⑤の各項目を行ったり来たりするので、わかりにくい部分もある。私の脳はついていこうと、一所懸命頑張ったと思う。受験勉強さながらに。知恵熱が出ちゃう。

そんなことはともかくとして、熱意がバンバン伝わってくる。公平公正であろうとすることも、よーく伝わってくる。ドキュメンタリーといっても、どこを切り取るか、どこをどうみせるかで、伝わってくるものは当然違ってくるわけだけど、真っ直ぐ、曇りない眼で、きわめて公平に公正に語ろうという姿勢には、感嘆しかない。提示したんだから、あとは自分で考えるんだよ、と言われているみたいでもあった。

戦争の責任者であるはずの人たちが、誰も責任をとろうとしない、空気を読みあった結果こうなっちゃったんですぅ-、みたいなことは、今の日本でも続いていることだし、いったいどうすりゃ良かったんだろうと私は自分自身に問いかけてみるけど、わからない。わからないから、やっぱりこれからも学んで、考えていこうと思う。あと、字面では知っていたことも、映像で観ることができて、私とすれば大興奮。例えば、これはホントにほんの一例に過ぎないけど、滝川幸辰も大内兵衛も石原莞爾も動く映像として観られた。証言する溥儀の姿も観られた。南京事件を目撃した神父さんの話も知ってたけど、あんな風に冷静にお話されたとは。東京裁判で、初めてわかった事実も多いのだ。A級裁判に対して、アジア各国で行われたB・C級の裁判と刑の執行。などなど、語り始めたらきりがない。


動く映像の力は凄い。
これぞ、生きた歴史!
いののん

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