めしいらず

ラヴェンダーの咲く庭でのめしいらずのレビュー・感想・評価

ラヴェンダーの咲く庭で(2004年製作の映画)
4.2
老女の遅い初恋。相手は浜辺に漂着した若きバイオリン弾き。若者特有の無邪気と無思慮。彼とて彼女の好意は理解しているけれど、その想いの本当のところは想像の埒外だ。最初から叶いっこないのに、それでも想いは痛切で断ち難い。恋にときめく彼女はまるで少女のようだ。でも人生は不公平。純粋な想いと大人としての分別の間で彼女は揺れる。自分のみっともなさ惨めさにさめざめと泣く。姉妹の思いを察し密かに引き離そうと彼を導く女の暗躍。そして彼は去った。若者には残された者の心情になどまだ思い遣れないものだ。彼がいたベッドに妹はその身を横たえる。彼との思い出を反芻する。二人歩いた浜辺で拾ってくれた石ころ。彼女の為に摘んでくれた花束。彼女が拾い上げておいた散髪された彼の髪。掌のその髪の行方を風に預けた時、彼女の遅くて短い初恋が終わる。若者には未来が無限に広がっていて、老いたる者のそれが少しずつ閉じていく必然。人生とは残酷なものだ。そして見届けた若者の晴れ舞台。彼女は彼に背を向け振り返ることなく静かに去って行く。
再…鑑賞。何と言っても遅い初恋に揺れる妹を演じたジュディ・デンチの素晴らしさは何たることか。妹を心配しながら見守る姉マギー・スミスの労りの眼差しもそう。息苦しくなるほどに痛切なラスト15分は私には忘れ得ないものとなった。哀切を美しく歌い上げる主題曲は映画史に残る名曲だと思っている。老優チャールズ・ダンスの初監督作であり、物語が少しばかり都合良かったり展開が性急だったりする部分こそなくはないけれど、老いることの拭いがたい悲しみを見事に掬い上げていて見事だった。
めしいらず

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