まぬままおま

ハムレット・ゴーズ・ビジネスのまぬままおまのレビュー・感想・評価

5.0
アキ・カウリスマキ監督作品。

こちらはシェイクスピアの『ハムレット』の翻案ですか…めちゃ面白いやん。

本作は、カウリスマキ作品で割と決定的な変化を与えていると思う。すなわち形式の上ではノワール劇であり、内容はコメディを行っている点で。だから最初は、父が殺され事業を乗っ取られようとしているハムレットの緊迫したノワール劇としてみようとするから驚く。ハムレットは別に立派な男ではなく、むしろ碌でもないけれど、暗殺をなんかくぐり抜ける「強い男」だし、人は淡泊に殺されていく。だから彼らの殺しは思わず笑わずにはいられない。ラジオを頭に突っ込まれるとか面白いじゃん…

このような作品のスタイルであることは、本作が労働者三部作の『パラダイスの夕暮れ』と『真夜中の虹』の間に位置づけられ制作されていることにも納得だ。労働者三部作は、ノワール調と恋愛を交えたコメディのバランスを探っている作品であり、どちらかと言えばノワールに重きを置いている印象がある。それが『マッチ工場の少女』で完成し、次作の『コントラクト・キラー』では逆にコメディ偏重に向かっていく。それから敗者三部作で純化を迎えるのが現時点でのカウリスマキ作品群の私の理解である。だから本作を作家性の第一の確立点と捉えることは可能だろう。

と、他の作品群との位置関係を考えながらみるのも面白いのだが、作品それ自体も面白い。それは形式の上では古典ハリウッドを踏襲しており、クロース・アップのショットや劇伴の使い方がとても上手いからだ。内容もコメディではありつつ、ブルジョワのビジネスゲームの空虚さと因果応報が根本にあり、人間性のエッセンスが凝縮されている。

このように物語の重みを持ちつつ、笑いへと昇華し、誰がみても面白いのだから本作はやっぱり傑作なんです。