明石です

パッションの明石ですのレビュー・感想・評価

パッション(1982年製作の映画)
3.7
「あなたの言う労働はあまりに愛に似過ぎている」

レンブラントの絵画を模した活人画映画を撮影するために工場を貸し切った映画監督。肝心の映画製作が「真実の光が見つからない」ために難航する中、工場長のひとり娘と恋に落ち、妻を捨てて、果ては映画までもを捨てて、彼女との情事にのめり込んでゆく。

トリュフォーの『アメリカの夜』の影響下で書かれた80年代のゴダール作品。この年代に入ってもなお前衛的な作風を貫きつつ、扱っている主題は「労働と愛」という、いわゆる「政治の季節」にゴダール自身が傾倒したプロレタリア主義への回帰といっていいもの(今となっては信じがたいことに、毛沢東を本気で崇拝していたのよねこの人)。たしか監督が商業映画に復帰したのは、一作前の『勝手に逃げろ/人生』だったはずですが、復帰自体が、奥さん兼ミューズのアンヌ·マリー·ミエヴィルの助言だったようで、「仕方なく商業映画に復帰した」感はそこかしこに垣間見える。とにかく観客を突き放すような難解なストーリーに、本当にこれで興行収入を稼ぐ気があるのか(いや、ない)と思っても失礼には当たらないはず笑。

デビューから二十数年という、映画作家に限らず、何かをクリエイトする立場にある人間なら大抵は円熟期に入るであろう時期に、いまだ前衛芸術スタイルで押しまくるバイタリティには敬意を払わざるをえない。けれども、劇映画として面白く見れたかといえば、正直、そんなことはない笑。やっぱりゴダールの全盛期は60年代初期なのかなあという思いをあらたにした。基本的にはオリジナル至上主義的な評価をしがちな私ですが、ゴダール作品に関しては、そういうのとは関係なく、デビューしたての頃が一番手放しで楽しめた。

とはいえ、奇抜な作家性を売りにした「前衛」的な作品でデビューし、その一作がヒットしたことで映画なり文学なり音楽なりへの入場券を手に入れるや、呆れるほど王道な作品を作りはじめる世間一般の「前衛」作家の軽佻浮薄さを思うにつけ(映画ではないけど、日本の芥川賞なんかはまさにその典型例ですね)、やっぱりこの監督は偉大だよなあと思う。重ねてになるけど、作品自体が面白いかどうかは別として笑。
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