猫脳髄

江分利満氏の優雅な生活の猫脳髄のレビュー・感想・評価

江分利満氏の優雅な生活(1963年製作の映画)
3.8
江分利満すなわち“Every Man”、戦争体験を経て戦後を生きる「普通の人」の生活史をユーモアたっぷりに映し出す岡本喜八のコメディ・ドラマ。

原作者の山口瞳の人物像により近づけた、生きづらさを抱えつつ頑固一徹な鯨飲サラリーマンを小林桂樹が好演している。おっとりした妻・新珠三千代に破天荒な父・東野英治郎も素晴らしいパフォーマンスを見せている。また、柳原良平によるアニメーションや特撮シーンを盛り込むなど、当時としてはかなり冒険した作品となっている。

一方、山口の反戦思想を反映してか、終盤の小林桂樹の長大な独白のクダリはバランスを失しているし、それまでの語りからもスケールが逸脱しており、中年期を迎えた普通の人の怒りや哀しみを超えた作為を感じる。妙なスポットライトの使用と合わせて、江分利がそれこそイタコのように語るのである。中盤にかけて盛り上げたせっかくの小さな”Every Man”への共感と普遍性が、大きな物語への接続により損なわれるように思え、ここは岡本の意図を図りかねる。
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