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江分利満氏の優雅な生活のKSatのレビュー・感想・評価

江分利満氏の優雅な生活(1963年製作の映画)
4.2
恥ずかしながら、初岡本喜八。

冴えないサラリーマン・江分利満(Every man)氏が、独り寂しく呑み歩いていた時に偶々出会った出版社の社員たちに促され、突如小説を書き始める噺。

岡本喜八はコマ単位でカット割を決めると聞いたことがあるが、これを見ると納得。ありとあらゆるユニークなカット(特撮や、柳原良平によるアンクルトリス風のアニメを含む)を、物凄いテンポで次々に見せてきて、天才的だ。

江分利満氏(声に出して読みたくなるので、以下、略さない)の小説の中で語られる物語は実は他愛もない彼の人生や日々の暮らしのあれこれを綴ったものだが、これがそのまんま昭和史に重なる(江分利満氏は昭和元年生まれという設定)辺りが痛快。昭和30年代後半に生きる人々の生の声や悲哀、苦労、歓びが、手に取るようにわかり易く見せてきて、今となっては歴史的な史料ともいえるかもしれない。

基本的には全編通してコメディであり、抱腹絶倒な場面は実に多い。江分利満氏の直木賞受賞の報せを聞いた息子が、喜びのあまり障子をビリビリに破く場面とかオモロすぎやろ。

とはいえ、東野英治郎演じる江分利満氏の父親に対するモノローグや、不器用な江分利満氏の徴兵体験の場面など、ユーモラスで温かい眼差しでありつつ地味に反戦のメッセージ性が濃い面も多々ある。

ただ、直木賞受賞してからの酔った江分利満氏が部下たちに対して延々と続ける独演会はちょっとしんどかった。あれは流石にダルすぎる、、、
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