白髪の老人は許さない!
原作はサントリーの宣伝部にいた直木賞作家の山口瞳。
原作とは何か所か改変されていますが、実に見事な映画的改変です。
原作も多分に原作者の自伝的要素の強い作品ですが、主人公のモノローグで物語を進めるあたりは、原作の雰囲気をそっくり踏襲しています。
しかも、映画の中の主人公が書いた小説が直木賞を受賞するという、原作にはない現実を取り込んでいるあたりが、逆に原作の自伝的雰囲気を強くしていて面白いのです。
洋酒会社の宣伝部にいる江分利氏は酒癖が悪く、飲むとすぐクダを巻き、同僚からも敬遠されています。
そんな彼が、そのクダの巻きっぷりから、女性雑誌の編集者に認められ、小説を書くことになります。
その小説を通して、江分利氏のすなわち戦後小市民の生活と思想が見えてくるという趣向。
戦中派のボヤキとはいうものの、戦後小市民の偽らざる感覚が語られています。
戦時中、市民がいかに理不尽な扱いを受けたか。
結局、戦争は金儲けをしたい奴がやらせているんじゃないかという戦争の本質をズバッと言い切るのは、自分の父親が戦争成金だったからでしょうか…。
戦争成金であり、江分利氏らを苦しめる父親も結局は何かに踊らされている悲しい人間ではあり、個人としては江分利氏もつい許してしまうのですが、「白髪の老人」という言葉で象徴される戦争で儲ける連中は許さないと言います。
イデオロギーなどではなく、皮膚感覚の力強い反戦思想なのです。
なにしろ江分利氏のモノローグで物語は進むのですから、主演の小林圭樹のセリフは半端じゃありません。
それをどこかとぼけたユーモアで語りつくすところが素晴らしいのです。
ストップモーション、メタフィクション的物語展開は斬新。
指で演じる徒競走は、チャップリンの『黄金狂時代』なども思い出させます。
2015/12/31 19:52
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