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江分利満氏の優雅な生活のOASISのレビュー・感想・評価

江分利満氏の優雅な生活(1963年製作の映画)
3.8
昭和30年代後半、大手酒メーカーに勤めるサラリーマン江分利満氏が、何をやってもおもしろくない無気力な日々に飽き飽きしていた。
ところが、ふとしたきっかけで小説を書くことになり、やがて直木賞を受賞してしまうという話。

「面白くないなぁ、尾も白くない」ダジャレを吐きながら毎日酒浸りな日々を送っていた主人公が、酒に寄った勢いで出版社の人間からの執筆の依頼を受けてしまう。
何にも取り柄が無いと思っていた自分の人生を振り返っていく内に、母の死や戦争に翻弄される我が家の意外と面白い出来事が明らかになっていく。

小林桂樹演じる主人公の膨大な数のモノローグで進む物語の中では、アニメーションや♂♀の記号だけで表現される妻との出逢い、時間がストップした中でこちらに向かってツッコミを入れてくるなど、モノクロ映画なのだが当時としては斬新な演出の数々が挟まれその技術を見ているだけでも面白い。
同僚の服装を解説する時に、説明の度にパンツ一丁になったり靴下だけになったりという場面はセンスの塊だった。

直木賞を受賞したとしても、以前と変わらず酒を浴びくだを巻き続ける様子からは、何気ない日常の中にもドラマチックな物語があるという嬉しさと、それを認識出来たとしても劇的に何かが変わる事は無いという虚しさが混在している様に思った。
後半からは主人公のべしゃりがただの愚痴になって行くので、聞いてられないレベルになってくるのが少し辛かった。

始まりと終わりにあるミュージカルシーンも、ラストに映る部分には悲しい印象を感じる事も出来る。
今日も屋上の隅っこで佇む彼...。
小さな笑いの中からジワジワと哀しさが溢れ出す、そんな映画でした。

直木賞を獲ったと分かった時の息子のリアクションが、襖をビリビリに破るという中々狂った描写で可笑しかった。
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