netfilms

TAKESHIS’のnetfilmsのレビュー・感想・評価

TAKESHIS’(2005年製作の映画)
4.2
 轟音轟くヘリコプターのプロペラ、壊滅した室内。敵兵が5人、日本人のアジトに侵入し、生存者がいないか確認して回る。床に倒れた死体の中、死んだふりをしたビートたけしがゆっくりと顔を上げると、敵兵と目が合う。場面が変わり、組長同士が銃を向け合うヤクザ映画のクライマックス、アジアン・ノワールのような過激な銃撃戦の後、主人公のビートたけしだけが立っていた。カメラが後退すると、それはブラウン管テレビの中の出来事で、賭け麻雀場が映る。卓に座る4人の男たちは北野のパプリック・イメージについて話しているのだが、そこにはビートたけし本人が何食わぬ顔で座っている。タクシーの中で待つ運転手と愛人でマネージャーの京野ことみ、大杉漣は付き添いで卓の横に座る。勝負事は今日も負け、組員の國本鍾建に若頭で俳優志望の石橋保を紹介される。遠巻きで見ていた岸本加世子はたけしの水持って来いの誘いにも冷ややかな表情を浮かべ、帰り際のたけしの背中に水をぶっかける。ビートたけしは芸能界の大スターとして、今日もTV局の仕事が入る売れっ子スターだった。スタジオの別室では、ビートたけしに瓜二つの北野がいた。50代半ばの彼は俳優としてまったく売れず、コンビニでアルバイトをしながらオーディションを受ける日々を送っていた。

 ビートたけしと北野武、瓜二つでありながら収入・地位・名誉に格差のある2人の対比の構図、かつて大部屋俳優として同じ釜の飯を食った寺島進は芸能界のトップにまで登り詰めたビートたけしを妬みながらも、北野武のために下手に出てサインを書いてくれないかと強請る。スターと大部屋俳優の光と陰、ビートたけしと北野武の間を行き交う登場人物たち、伺い知ることの出来ない互いの私生活はやがて「夢うつつ」に侵食され、二律背反の関係は混濁した世界になだれ込む。撮影情報はほとんど開示されず、ヴェネツィア国際映画祭で監督名も作品名も事前に伏せて初上映された今作は、武流シュールレアリズムに溢れる。京野ことみと岸本加世子の乱痴気騒ぎ、大杉漣、寺島進、津田寛治、芦川誠、渡辺哲、國本鍾建ら北野組総出演のピカレスク的不条理劇、スパゲティナポリタンと顔から流れた血、書き割りの海とキタノ・ブルーを想起させる海岸線の青、美輪明宏のヨイトマケの唄と花束に隠れていた青虫のダンス。この先は行ってはならないという大杉漣の忠告を遮り、2人のデブを乗せて世界の終わりに向かうピンク色のタクシー、33回転で回る坂本スミ子の『夢で逢いましょう』の懐かしいメロディ。クライマックスでたけしは武を殺し、今作がようやく『TAKESHI'S』ではなく、『TAKESHIS'』だった意味を悟る。
netfilms

netfilms