Keiseihhh

ブレードランナーのKeiseihhhのレビュー・感想・評価

ブレードランナー(1982年製作の映画)
4.2
美しい。小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」の映画化というより映像化と形容した方がいいかもしれない。エアカーが走るその下の街路では東洋風の屋台があり、ガラス張りのビルでは花魁をフューチャーした広告が流れる。酸性雨に塗れた近未来都市を描くサイバーパンクの無国籍世界は、のちのSF作品に多大な影響を与えたと見て間違いない。この作品の未来観を語る上で欠かせないのは、ビジュアル面でのコンセプトを立ち上げた故シド・ミードだろう。ミードは「環境や時代背景と密接に繋がってこそデザインは成立する」との指標を持ち、本来ならばカーデザインだけの担当であったはずが、ビジュアルフューチャリストとしてこの映画の映像美、引いては世界観構築、SF考証を担うのに成功している。80年代中期以降は彼の名前が日本でも散見出来るようになり、影響を与えたいやむしろ支配したと言っても言い過ぎではないだろう。ゲームデザイナーの小島秀夫氏の手掛けたSFアドベンチャーゲーム「スナッチャー」はこの作品無くしては完成しなかったであろうし、補足だがけいせいさんの自作の小説「時計塔に眠る怪人」で主人公が失った脚を接合しに行く街は、ブレードランナーに大きな影響を受けている。またレプリカントを発見するための嘘発見機も設定からして相当に作り込まれており、虹彩の筋肉の縮小等、微細な面で嘘を見抜く装置として、しかしどこかアナログ感が漂うデザインでこの古今そして東西が混交した作品を彩っている。またスピナーと呼ばれる架空のエアカーや主人公、デッカードが使う特殊な銃、デッカードブラスターなどの緻密な構造やデザインまたはそれが使われる理由としてのSF考証などは、現代社会で一部現れつつある、この映画の世界観の説得力をより強固にするために不可欠であっただろう。加えて膨大なアイデアが投資されたこの作品を一つの映画として統合した監督リドリー・スコットはやはり賛辞を多大に贈られて余りある存在である。製作当時の1982年の目線でイメージされた未来は、1982年の延長線上にある世界と言うより全くの別世界の創造だったと言える。当映画は非妥協の精神で望んだスコットとディテール製作のために多くのデザインを施したスタッフとの斬るか斬られるかの緊張感で生まれたと言っても言い過ぎではないかもしれない。配給元のワーナーブラザースもこの大いに冒険的で実験的な、これまでの映画、デザインやディテールよりも脚本と俳優の売りを押し出した作品を覆すかのような、コンセプチュアルな映画を大資本を投資しバックアップした。それは創始者、ユダヤ人家系の勤勉な起業家でありフロンティアスピリッツ溢れるワーナー4兄弟の精神を引き継いでいたからこそだろう。ワーナーはこの映画のセットとしてオープンセットであったオールド・ニューヨーク・ストリートを多大な資材を投入して改築し直している。またロケの一つはロサンゼルス・ユニオン駅で行われており、一日平均僅か10分という撮影時間でブレードランナーに見事整合するシーンを撮影するのに成功している。この映画に携わった全ての人、奇跡に関わった全ての人に賛辞を贈りたい。脚本面では静謐で抑揚を抑えた筆致で展開する。それがラストの故ルドガー・ハウアーの余りに美しいカット、短い生命を持つレプリカントとしての終幕をこれ以上ない、映画シーンに残る名シーンへと押し上げている。飛ぶ鳥、静かな雨、追い込まれたデッカードの脅威に満ちた表情など全てのシーンが、このハウアーの終幕を彩色するに相応しい映像美として挿入されている。最後補足としてスコットはこれまでのSF映画に見られたレーザーが飛び交う銃撃戦を回避するために、銃の設定とディテールに徹底的に凝った。これは明らかに先達であるスターウォーズを意識していたであろう。とにかくもこれまでの映画の常識を覆し、同時に極々一般的な映画にかける労苦を遥かに超える辛苦とアイデアを注ぎ込んだ作品として、この映画は語り継がれるだろう。よって高ポイントの4.2。おめでとう!🎉ブレードランナースタッフ&キャスト!
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