半兵衛

日本女侠伝 血斗乱れ花の半兵衛のレビュー・感想・評価

日本女侠伝 血斗乱れ花(1971年製作の映画)
4.0
今までの藤純子には男勝りだったり、腕っぷしが強いといった任侠映画らしいキャラクター付けがなされていた。だが本作では商人あがりの普段はおしとやかで優しい、しかし芯の強い普遍的な女性キャラクターを見事に演じきることに成功している。また大阪弁やどことなくとぼけた性格など、コミカルな演技も飄々とこなし演技力の高さを感じさせる。

また作品の内容も商人の妻だった藤が、亡くなった夫の津川雅彦が見つけた炭鉱を受け継いで成長させるというそれまでの任侠映画のパターンを脱した経営者一代記の物語となっており、山下耕作監督の風格ある演出も相まって文芸映画的な雰囲気も感じる。もちろん任侠映画である以上殴り込みなどのシーンはいくつかあるが、全体的に炭鉱に生きる人間たちのドラマをメインに描いているのでますますそういう印象を受けるのだ。

シリーズ一作目でも炭鉱の話は出てきたが、本作は更にそれを掘り下げて石炭を掘るノウハウや当時炭鉱を経営している人達はどういう商法をおこなっていたかなどを詳細に描いており、映画にリアリティを与えている。脚本の野上龍雄はそうした商人物語を描く一方で高倉と藤の恋物語や、様々な人間ドラマを濃厚に描き、しかもそれを100分近くにまとめているって…凄すぎるよ。中でも一番の見せ場は山本麟一が自分の恋心を抑えて好きあっている藤と高倉を二人っきりにさせるサポートをするシーン、山麟の不器用な男心に泣いてしまった。

いつもの東映映画とは違うキャスティングも印象的で、藤を密かに想いつつ彼女の仕事をサポートする番頭的なポジションの山本麟一(今回は暴力沙汰には参加しない)や、炭鉱のノウハウを藤に伝授する水島道太郎の武骨なベテランっぷり、悪党に義理を受けつつも苦悩の末に市民の生活を優先したために悪人たちにぼこぼこにされる気骨に満ちた親分・天津敏…いずれも名演。そして九州男児の心意気を見せつけるリアル九州出身の高倉健のカッコよさ。…よくよく考えれば山下耕作監督も九州出身なので、いつもの任侠映画に比べると重みを感じる登場人物が多いのはそのせいかも。

先ほどアクションが前に出ていない旨の話をしたが、それでもラストの高倉の殴り込みの迫力はさすが。人が斬られるたびにかかるストップモーションの使い方がインパクトがあって、まるで斬られた人の魂の叫びが聞こえるよう。そしてそれが高倉の最後に結び付く演出も見事。
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