よーだ育休中

レナードの朝のよーだ育休中のレビュー・感想・評価

レナードの朝(1990年製作の映画)
3.0
1969年、ブロンクスの神経科専門病院へ神経学研究室〝研究員〟の面接に訪れたSayer医師(Robin Williams)は、病院側の医師不足から臨床経験が無いにもかかわらず〝医師〟として採用される。ALSやPDとは異なる原因不明の患者を受け持つ事になった彼が、複数の患者達にとある共通点を発見する。


◆実在した一人の医師の物語

1920年代に流行したという原因不明の嗜眠性脳炎による後遺症と戦った医師の、事実に基づいた物語。脳や神経系の疾患については現代においても未だ解明されていない部分が多いと聞きます。根本的な治療方法が確立されておらず、対処療法で生涯にわたって付き合っていかなければならない疾患も多いとか。

そんな難しい病態の疾患に対して、〝原因不明の認知機能の低下〟として一緒くたに扱われていた患者たち。その中でも一部の患者たちの症状から共通の特徴を見つけ出し、共通の既往症に気がつく事が出来たのは、Sayer医師の『誠実な人柄』と、『研究畑出身』という特長がパチっとはまったからなのかと思います。

パーキンソン病の治療薬を投与する事で激的な回復を見せた患者たち。その効果は一過性のものであり、その後の治療は奏功しなかったとの事。救われない終わり方でやるせ無い気持ちになりましたが、医療現場では日々こうして難しい病気と戦っている人がいるんだなと実感しました。

今作では、患者たちではなく医師のSayerが物語の中心に置かれていたので、患者たちが昏睡状態から目覚めた事に対する部分にはあまり言及されておらず、ここはもう少し掘り下げて欲しかったと思います。尺と脚本の都合上、個々がぼそぼそっと独白するシーンが挟まっていた程度だったのは、映像作品としての限界なのかもしれませんが。


◆卓越した演技力の二人

嗜眠性脳炎による後遺症患者たちの中でも特に中心的な位置にいたLeonard(Robert De Niro)は、小学生の頃に脳炎を患い、およそ30年もの長きに渡って意思疎通が困難であった男性(少年)でした。LeonardとSayerの掛け合いを中心として物語が展開していきますが、R.De NiroもR. Williamsも素晴らしい演技でした。

R. Williamsは得意のコメディ調はひたすら抑えて、哀愁の漂うシリアスな役所を非常に上手く演じていました。R.De Niroも薬の副作用によって不安定になっていく心の様子と、振戦発作などの身体症状、そして一人の男性が初恋を経験する心の機微を完璧に演じてみせてました。


◆〝いま〟を〝ありのまま〟過ごせる幸せ

〝一夏の奇跡〟を終えた後、患者たちはまた〝魂の抜け殻〟へと逆戻りしてしまいます。彼ら彼女らがどう感じているのか知る術はありませんが、やるせない気持ちと共に〝今を謳歌することの大切さ〟も改めて感じました。奇跡が起きたひととき、患者たちの爆発的な生のエネルギーは凄まじかった。

日常に埋没して忘れてしまいがちな〝当たり前の日々を送ることができる幸せ〟を、もっと噛み締めるべきだと痛感しました。当たり前に享受できる物ではないのだと。

実際のドクターがどのような人物であったのかわかりませんが、作品の中のSayar医師もきっと同じような事を考えたんだと思います。だからこそ、人付き合いが苦手な彼が、ラストシーンで看護婦さんに歩み寄る姿勢をみせたんだろうなぁって。


とりあえず、目下治療中の足が良くなったら、思いっきり走る喜びを噛み締めたいなって思います。