みなりんすきー

フリーダムランドのみなりんすきーのレビュー・感想・評価

フリーダムランド(2006年製作の映画)
3.2
『アームストロング団地は俺の庭だ あそこの住人は一人残らず知ってる』

『私が悪いの あの子の気持ちに応えてあげなかった 私の宝だったのに』

『事件はこの団地内で起きた ここの連中が──知らないはずはない 誰かが吐くまで ネズミ1匹外には出さん』

”悲劇はムダではなかった 悲しみを共有することで──我々はすべての壁を越え──人間としての絆を深めた 天使よ 神のもとに行きなさい”


■ あらすじ ■
アフリカ系住民が大半を占める団地・アームストロングで、ある夜カージャック事件が発生。被害者の女性ブレンダ(ジュリアン・ムーア)の証言で、犯人は黒人、更に車には4歳の息子が乗っていたことが判明する。人種間の緊張が高まる中、刑事のロレンゾ(サミュエル・L・ジャクソン)は捜査を進めるが…


■ 感想 ■
『フリーダムランド』
(『Freedomland』)

ベストセラーを映画化したヒューマンミステリー。
個人的にはミステリーよりサスペンス要素がぐっと強く、また自由の国アメリカにおいての社会問題をまざまざと描いた作品でもあるため、「ミステリーで謎解きを楽しみたい!」という人にはあまり向かない作品だと思った。この作品、恐らく粗筋などからミステリーを期待した人たちが多く、そのせいで微妙に肩透かしをくらいこの評価になってしまってる気がしました。ザッとレビューを見てみた感じからも。はじめから社会問題を織り交ぜたサスペンス映画だと把握して観れば、特に残念な気持ちにはならないかと思います。私は普通に楽しめました。そもそもこういう映画が好きというのもあるけれど。

サミュエル・L・ジャクソンにジュリアン・ムーアと主役が豪華キャストで、絵的には勿論、演技面においても圧倒的でしたね。長回しのシーンも多く、台詞もとにかく長かったり畳み掛けるようなものも多く、御二方の実力が余す所なく発揮されていました。鬼気迫る演技に、見ているこちらが緊張してしまうくらい。ジュリアン・ムーアも凄く美人なのに、こういう心身ともに疲れ切っている役を演じる時の滲み出る薄幸さや、正気と狂気の狭間にいるような危なげな雰囲気を出すのがとにかくリアルで上手い。この人は果たして狂ってしまっているのか?それとも正気なのか?と、常に問い続けることになる。本当にどっちなのか最後まで分からず、ずっと不安が続く。

要となる事件に関してだけれど、この映画においてのこの事件の存在意義というのは、”犯人は誰だ?真相やいかに?”というミステリー的な謎解きの楽しさ、ではないと思う。先ほど前述したように、今作はミステリーというよりは社会問題を織り交ぜたサスペンス。この事件もそのうちの1つでしかないのです。ブレンダが嘘をついているのかいないのか、何が本当なのか、何が起きたのか。確かに、それを解き明かしていくのも大切だしそれを追っていくのがサミュエル演じるロレンゾなんだけれど、ブレンダの証言の真偽はどうあれ、私が思うに結局のところ彼女はそもそも”育児ノイローゼ”であったのは間違いないんじゃないかなと。最後までハッキリとは言われないしただ精神が少し参ってただけかもしれないけれど、彼女がシングルマザーとして1人で息子を育てていくうちに色々なストレスを抱えて苦しんでいたのは事実だと思う。金銭的にも余裕がなく、助けてくれる人もいなかった。一応近くに兄がいるが、2人のやり取りから察するに家族関係はうまくいってない。ブレンダが若い頃クスリに手を出し荒れていた過去があり、兄は未だにそれを咎めているし何ならまだクスリをやっているのでは?と疑っている様子からも、互いの間に信頼関係のようなものはあまりないのが見て取れる。そうなってくると、ブレンダがいかに孤独の中子育てをしてきたのか、そして彼女が話していたように、「子供が唯一の救い」のようなものだったのかが分かる。
とはいえ、子供は親のための道具ではない。どんなに幼かろうが、どんな問題を抱えていようが、1人の人間なわけで。かけがえのない命なわけで。自分が救われたいがために子供を産んだりしたら、きっといつか限界がくる。ブレンダのように。親は子を選べないのと同じで、子も親を選べない。そんな現実をまざまざと見せつけられた。

日本人としては、黒人と白人の人種差別はあまり身近ではなく歴史で学んだりこういった映画で学んだ部分が多いけれど、やはり根深い問題なのだと改めて思い知らされる。同じ国に住み、同じ言語を話しているのに、なかなか埋まらない溝がそこにはある。歴史が変わらず残り続ける限り、この問題も一生続いていくんだろうか。やるせないし、虚しくなる。

ラストで、ロレンゾが息子を抱き締める場面では思わず涙ぐんでしまった。愛する我が子が元気で生きてくれている、それがどれだけ幸せなことか。ロレンゾは息子のことでずっと自分を責めてきたけれど、これからはきっと、ただ負い目を感じ続けるだけでなく、2人の時間を大切にしていけるんだろうと思った。