Ricola

ロスト・イン・トランスレーションのRicolaのレビュー・感想・評価

3.5
ビルが乱立している街。広告やネオンがうるさい街。それが東京である。
言葉も文化も全くわからない東京に、観光目的ではなく訪れた若い女性と中年男性の、友情とも恋愛とも言いがたい絆が芽生える。

日本人として、東京に住む者として、東京に対する外部の視点が純粋に面白いし、見慣れた街であるはずの東京も(この作品が少し前のものだからかもしれないが)、どこか知らない土地のようにも見えてくる、そんな不思議な効力を持った作品であると思う。


写真家の夫の仕事についてきた若い妻シャーロット(スカーレット・ヨハンソン)と、ウイスキーのCM撮影のため来日したハリウッドスターのボブ(ビル・マーレイ)。
二人とも知らない異質な国でそれぞれ彷徨い、孤独である。
この国に、この街に、自分は属していないし、何も誰も知らない。
そのため、シャーロットはひとりでホテルの部屋に閉じこもり、東京という都会の街を見下ろしているばかりで、ボブも特に街に繰り出そうとしない。

困惑した絶妙な表情が印象深いビル・マーレイ。
日本のテレビをスワッピングして、ハの字眉毛で困惑している。芸人やタレントが体を張ったバラエティ番組や時代劇など、言語がわからないという理由だけでなく首を傾げている。

東京という街がディストピアとして映し出されている。
晴れた空でも明るく映し出されることはなく、曇り空や明け方、夜などの暗さがこの街を覆っているのだ。
これはシャーロットとボブの、東京に対する印象そのもののように感じる。

とはいえ、彼らはずっと東京に困惑しているわけでもない。
孤独な二人で一緒に一歩を踏み出せば、迷ったって楽しい。
その国に属している人とコミュニケーションをとることで、その国のことがやっとわかってくるのではないだろうか。
わたし自身は実際にそうだった。

音も色も光も雑多で忙しない東京。
その中に放り込まれた二人の冒険では、自分自身への気づきや変化が起こっていた。
Ricola

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