mizuki

ロスト・イン・トランスレーションのmizukiのレビュー・感想・評価

4.7
言葉にしなきゃ伝わらないことも、言葉にしたからって伝わらないことも、同じくらい多いと思う。
意思疎通を図るための英語が伝わらない歯痒さ、同じ英語を喋っているのに噛み合わない歯痒さ。
逆に、病院の待合室にいたおばあちゃんとのやり取りのように、結局何も伝わらなくてもその伝わらなさがなんだか楽しかったり、Yes かNoの意思疎通だけ図れれば一緒の空間でただ微笑み合うだけで通じ合っているって解ったり。
私は日本人だし日本語しか喋らないけど、「日本語通じないな」って、同じ日本人に思うことはたくさんある。コミュニティがまるっきり違うと、自分が使っている言葉とは真逆の言葉で共通の概念を表していることだってある。大学1年生の時、色んな世代・境遇の人と話してみたいという目的でアルバイトを始めて、衝撃を受けた。力仕事系では結構怒号が飛び交っていて(危険が伴う作業なので基本みんな声がでかい)、「死ね!」って全然言ったりしてるけど、全然「ちゃんと生きて働け」って意味だと思うし(笑)飲食系は能天気な人が多かったから、ミスったりすると「何も考えなくていいよ〜」とか平気で言ってくるけど、単純に「気にするな」っていう慰めのつもりだと思うし。悪意と善意には敏感でいるべきだと思うけど、言葉の使い方一つをとって早々に切り捨てたりするのは絶対違うし、好きな言葉をたくさん並べてるからって"気が合うと思わなきゃいけない"と思う必要もない。同じ言葉で同じ概念を表す人とだけいるのは飽きた。言葉の使い方に縛られないで、一生たくさんの人に出会い続けたい。

クラブに行って、言葉はほぼ通じないところに放り込まれたはずなのに、2人はすぐほっとした顔つきになる。あのシーンが最高だった。何も考えずにはいられないけど、塞ぎ込むのも違うってわかっている人々が集う場所。言葉を交わさずとも、あなたも私もここに来てほっとできるってことは…と、全員が全てを察して、他愛のない会話をする。目を合わせてただ微笑む。察しの文化を描いてくれた気もするけど、それって日本に特有なものではなく世界共通だと伝えようとしてくれている気もする。いずれにせよ、"察し"をあんなに美しく描いてくれてとても嬉しかった。
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