青山

ロスト・イン・トランスレーションの青山のレビュー・感想・評価

3.7

ウイスキーのコマーシャル撮影のために来日したハリウッドスターのボブと、フォトグラファーの夫の仕事に伴って来日した若妻のシャーロット。同じホテルで偶然出会い打ち解けたふたりは、見知らぬ土地で時間を共有するうちに、いつしか惹かれ合っていく......。


フォロワーさんとソフィアコッポラを観て感想会をすることになったため2回目見返しました。
改めて観てもやっぱ日本人として非常に複雑な気持ちになる作品ですが......まぁでもやっぱり好きですね。


異国の地で過ごしている......というせいだけではない2人の孤独が、しかし異国の地で際立って、友人とも恋愛ともつかぬ"共犯"的な関係を結ぶのがステキ。特に何かでかいことは起きないけれど、小さな出来事の積み重ねが少しずつ2人の距離を近づけていく様には静かな緊張感があって面白く観れました。絶妙に分かりやすいけどわざとらしくない表情の演技もさすがですよね。

そう、なんと言っても主演のビル・マーレイとスカーレット・ヨハンソンの2人の魅力が本作の魅力の大部分を担っていると言っても良いと思います。
ビル・マーレイのあの戸惑いと見下しと戯けの混ざったようななんとも言えん表情が味わい深すぎる。そしてスカヨハの苛立ち混じりの憂鬱も良い......。スカヨハがめちゃくちゃ綺麗なんだけどエロくは映されてないので作中の二人の関係性のように観てる私もプラトニックな恋心を彼女に抱いてしまいました。

そして、そうして静かに積み重ねたものが少しだけ決壊するようなラストにムズムズ。旅先で出会った忘れられない人と別れる時の言葉にならない気持ちを、言葉にならない代わりに映像で完全再現しててエモい。2人の身長の差もこの画のためだったのかと、小さな伏線回収に泣きました。


ただ、やっぱり日本人としては日本の描き方にフクザツな気持ちになっちゃうんですよね。
なんせ日本という国が8割くらいはディスり調子で描かれていて、それが誇張されていつつもけっこう的確に日本の嫌なところを切り取っているので、なんでそんなに知ってるんすか......と恥ずかしくなってしまう。けどまぁ、日本の嫌なところを知ってるだけに「よくぞ言ってくれた!」という気持ちにもなるんですけどね。

まぁでもロスト・イン・トランスレーションと言いながらハナから日本人と交流するつもりもなく彼ら同士の交流を描くための「嫌な状況」という背景としてこの国が描かれていることには、やはり一定の不愉快さは感じてしまうのも事実でした。
また、東京がそんな描かれ方な一方で京都は日本の美しい側面として描かれているあたりの浅さも若干嫌でした。
はっぴいえんどの「風をあつめて」の使われ方はすごく良かったけど、「日本はクソだけどこの曲はいいよね」みたいなのが滲み出ていてそこもちょっとモヤる。

という感じで、私が日本人じゃなければ「やっぱジャパンはクレイジーだなハハハ」って感じで特に気にせずに観れただろうし、特に気にせずに観ればめちゃ好きな映画ではあるんだけど、でもやっぱ日本人としてのアイデンティティが「これだいぶ差別的じゃないっすかね!?」と叫んでしまうという点において『ミニオンズ』への気持ちに近いものがある作品です。まぁでも、好きなんだけどねぇ......。
青山

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