HAYATO

切腹のHAYATOのレビュー・感想・評価

切腹(1962年製作の映画)
4.3
2024年161本目
切腹の理由とは。
1963年のカンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞した傑作時代劇
滝口康彦の小説『異聞浪人記』を原作に、『七人の侍』などの名脚本家・橋本忍が脚色を手がけ、『人間の條件』などで知られる社会派の名匠・小林正樹監督が、武家社会の虚飾と武士道の残酷性を描く。
寛永7年10月、井伊家の屋敷に津雲半四郎と名乗る浪人が現れ、「切腹したいので庭先を貸して欲しい」と申し出る。近頃、江戸では金に困った浪人が他人の屋敷の玄関先で切腹すると申し出て金品を巻き上げる手口が横行していた。井伊家の家老・斎藤勘解由は半四郎に、春先に同じ用件でやって来た千々岩求女という者の話をする。浪人たちの強請同然の手口に悩まされていた勘解由は、死ぬつもりなどない求女に庭先を貸し与え、本当に切腹にまで追い込んだのだ。話を聞き終えた半四郎は、勘解由に衝撃的な事実を語りだす。
半四郎を『椿三十郎』の仲代達矢、勘解由を『犬神家の一族』の三國連太郎が演じる他、『八つ墓村』の石濱朗 、『秋刀魚の味』の岩下志麻、『007は二度死ぬ』の丹波哲郎、『砂の器』の稲葉義男らが出演。
深くて暗いテーマ。かつて日本人が神格化していたサムライ精神への辛辣な風刺がこめられていながらも、海外からはその残酷性を古典的な悲劇美として称賛された作品でもある。前半は殺気に満ちた問答を通して男が切腹を志願した理由が明らかになり、後半はその伏線が一気に回収されて大きく物語が動き出す脚本の凄みに圧倒される。
生活に苦しむ求女が竹光で切腹するシーンは目を背けたくなるほど痛々しい凄惨なもの。徳川幕府の圧政によって困窮する浪人の苦境は、経済格差やコロナ禍の影響で困窮する現代の人々の姿に重なり、世の中の変わり目で犠牲になっていく人々はいつの時代も存在するということを思い知る。
終盤の仲代達矢さんと丹波哲郎さんによる護持院原での決闘では、竹光ではなく真剣が使われてるそうで、緊張感がハンパない。本作屈指の名場面だった。
仲代達矢さんは本作を自身の最高傑作に挙げている。撮影当時29歳とは全くもって信じられないほど、孫のいる50代の浪人を違和感なく演じていた。どんだけ貫禄あるんだ。
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