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切腹のnowstickのレビュー・感想・評価

切腹(1962年製作の映画)
3.9
原作、脚本を先に読んでから鑑賞。
羅生門、生きる、七人の侍といった黒澤明の名作に携わった脚本家の橋本忍さんが、本作の原作を読んだ後、すぐに脚本化にとりかかった作品とのこと。海外での評価も異様に高く、1960年代の名作映画ランキングを英語で調べると、必ずトップ10に入ってくる作品で、前々から気になっていた。

まず、原作は素晴らしかった。非線形の語り口と、途中で読み手が感情移入する登場人物が変わる構成は見事だった。続いて脚本は、基本的には原作に忠実だが、クライマックスにチャンバラシーンを入れて映画的に仕上げていた。しかし、映画版を見ると、ラストのチャンバラシーンが映画的な演出のために存在しているように感じてしまった。
おそらく、橋本忍さんは映画全体の構成を考えて、バランスよく脚本を書く人なんだろう。脚本を読んだ時はチャンバラシーンに対して特に気にならなかったが、映画にしてみると、ラストの過剰な演出が気になってしまった。また、物語の設定を説明するために存在しているシーンも多く、物語全体のリアリティから来る凄みを阻害してしまっているような気がした。

そういった点で完璧とまでは思わないが、中国のHeroといった映画にも影響を与えているであろうことから、良い作品だと思う。

音楽は武満徹で、本作の作曲のために琵琶の記譜法を勉強して、それが後の「弦楽のためのレクイエム」といった一連の作品群に繋がっているらしい。
武満徹は邦楽と洋楽を混ぜた絶対音楽で有名だが、乱や本作のような映画音楽も素晴らしいし、映画音楽の制作が武満徹のキャリア全体にも影響を与えていることから、もっと評価されるべきだと思う。
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