まぐろさばお

切腹のまぐろさばおのレビュー・感想・評価

切腹(1962年製作の映画)
4.8
恐るべき完成度のサスペンス。

赤備えで有名な井伊家のプライドと、人間が生きる上で、人を守る上で泥も啜らねばならないという真の自尊心の対立。

しかもすごいことに、映画的な著述トリックによって津雲半四郎と千々石もとめの素性がブラインドで隠されている仕組みにより、序盤は観客自身が井伊家側と一緒になって千々石を鼻で笑ってしまう作りになっている。

「侍の切腹という文化を悪用し狂言切腹で、金のゆすりたかりに使うなどとは、恥も外聞もないロクデナシだな」と観客も千々石を見下し
中にはそんなしょうもない愚か者は竹光で切腹しても「自業自得」であると懲罰感情にほくそ笑んだ観客すらいるかもしれない。

ところがどうだろう、ことの本質つまり偏見が解かれて事情がわかると、それがいかに差別的な思想であったのかというのが観客席まで突き刺さる。

さらに真剣(本当の刀)を使い、刀のリアルな重さを感じさせるリアル志向の殺陣、剣術と戦鬪の違い、当時としては珍しいナレーション(というより講談による)ノワール映画の意識の流れのような見事な流れなど、非常に見どころの多い傑作だ。仲代達也の最高傑作かもしれない。