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百年恋歌(2005年製作の映画)
3.7
 豆電球の僅かな明かりの下、テーブルの上で男(チャン・チェン)は真剣にキューを打つ。その姿を真剣に見つめる1人の女の姿がある。男は最初、ビリヤード場で働く春子という女性に恋をしていた。青年は自分の気持ちを告げることが出来ないまま、手紙にしたためるが春子の態度は随分そっけないものだった。やがて波止場から船が出港し、すれ違いで女(スー・チー)を乗せた船が高雄へと到着する。女は新営からはるばるやって来た。女は春子が引き出しに入れた男の手紙を盗み読みしてしまう。1966年、兵役に取られた青年は一時的な休暇で春子に会いに戻るが、彼女は台中に行ってしまったという。男はなぜか彼女の後釜に収まった女が妙に気にかかるのだが、既に彼女もそこを去った後だった。男は女の僅かな記憶を頼りに、街から街へと探し回る。やがて場末のビリヤード場で男は女の姿を見つける。ホウ・シャオシェン×リー・ピンビンによる長回しは、男女の些細な機微を大胆に繊細に掬い取る。テーブルの方に夢中になっていた女はふと後ろを振り返り、彼と目が合い動揺する。

 1911年、1966年、2005年に設定された3つの物語には、3通りの男女の恋模様が交差する。最初の「恋愛の夢」は、戒厳令下の台湾で兵役に就く青年のすれ違いの恋が描写される。今ではすっかり死に絶えた手紙でのやり取りや、ナビもないまま女の姿を必死で探し回る青年の心模様がいじらしい。女は他人宛ての手紙の文章に痛く感激し、青年のことを秘かに恋い慕う。続く「自由の夢」は日本の統治下にあった1911年、遊郭に通う外交官チャン(チャン・チェン)と芸妓(スー・チー)との秘めた恋を描く。男は女の頼みを快く聞いてやるが、どういうわけか意中の芸妓だけは水揚げしようとしない。一番大好きな女を妾とすることなく、男は革命家と合流し、日本へと向かう。ここでも墨汁で書かれた手紙が印象的だ。最後の「青春の夢」では、男も女も互いに愛する女がいる中で恋に落ちる。飽食の時代に突入し、男も女も電子メールで簡単にやりとりする。互いに平気で嘘をつくし、2人はインターネットの中では誰よりもダイレクトに繋がっている。3組の恋愛は台湾の経済的成長とも無縁ではない。時代的な制約や足枷から自由になった21世紀の男女は自由を謳歌にしているように見えて、寂しさの只中にいる。そのレイヤーの違いに時の流れをを静かに想う。
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