三四郎

不沈艦撃沈の三四郎のレビュー・感想・評価

不沈艦撃沈(1944年製作の映画)
3.8
国策映画の中では『ハワイ・マレー沖海戦』や『海軍』より、私はこの映画が好きだ。科白が活きている!

「海軍は何をしておる!!過酷な犠牲を国民に要求して海軍は何をしておる!言いたまえっ!沈黙の海軍か、沈黙は勇気の象徴か(略)海軍のその状態を永遠の沈黙にするなよ!」

1941年が舞台ではあるが、1944年当時の国民の思いを代弁しているような科白!
佐分利信の父の方を映すのではなく、海軍軍人の方を過激に強弱をつけて映すので、緊張感が伝わってくる!!4段階の切り替えは実に巧みだった。マキノ正博監督の演出の巧さに唸らされた。

開戦の臨時ニュースを聞き、工員達が走って帰る雪のシーンは圧巻だ。そして、ラジオニュースと軍艦マーチをバックに工場で一所懸命働く工員たちの姿、真剣な眼差し、この演出は美事!

戦意高揚ものは大体台詞が芝居がかっていて真実味がないが、この映画では正直なことをそれぞれが述べている。
「(夜勤について)今でさえブーブー言う連中がいっぱいるんだ。(略)作るのはこの工場三千の工員の頭と手だ。しかもそれが皆が皆、君のように国家の要請に応えてピーンと立つ人間ばかりいるんなら、そりゃ文句はないさ。玉もいれば瓦もいるんだ。そういう雑然だる集合が工場の現実なんだ。しかも、人間は機械じゃないんだ」
「もちろんです。だからこそ、そこに道があるんだと思います。機械はその性能通りにいわゆる機械的に動くだけです。人間は標準のマイナスの仕事もするかわりにプラスの仕事もできるんです。機械が持っていない意欲というものを人間は持っているんです」

「金より品が欲しい」という現実を描いているのも興味深い。
「アメリカ製に頼るのがいけない。我が国のガソリンの量が減っていっている。それを国民に伝えられない。伝えたら国民も奮起するのだろうが、発表できぬことだから…」など、1941年以前を舞台にしているとは言え、公開当時の1944年のこととして考えても当てはまる。

「国産品はアメリカのものに敵わない」という科白が普通に出てくるのも驚いた。戦時中に製作された映画であってもこういう誠実さが大切だ。
「アメリカの禁輸を喰らって困るような事態に至らしたのは我々資本家だ」
色々と当時の事実を率直に語っている!

1944年3月公開の映画にもかかわらず、1941年の開戦祝勝映画を作らざるを得なかったということが辛いね。他に映画にできるような話題と大勝利がなかったんだねと切なくなる。
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