昼行灯

序の舞の昼行灯のレビュー・感想・評価

序の舞(1984年製作の映画)
3.8
座位分娩の産み紐をひく運動と、焔の髪の線を引く運動の連関、この演出に序の舞の全てが表れている。名取裕子にとって子供を産むことと絵を本分とすることは全くアイデンティティを確立するうえで重なっている。それはもちろん師匠と不純な関係を結ばなければ名をあげることが出来なかったという男社会の画壇に生きる女性画家の悲しい運命を示してもいる一方、女性、とりわけ母を主題として画家人生を全うするという松園の本分も体現している。焔の下書きとして壁に刻まれた(と言ってよい)髪の線のストロークの力強さは、名取裕子の強かな生き様を体現している。

そして母である岡田茉莉子のほとばしる演技。妊娠発覚の時点での障子や仏具を扱う身体のダイナミックさは、彼女が決して家父長制に埋没した後家ではないことを物語っている。その証拠のラストの松園の『母子』。その作品の大きさと対比される形での佐藤慶の矮小さよ。ズームアウトによりロングショットに拍車がかかるなかで、師匠の存在の軽さが如実になり、松園に対する敗北が明らかとなる。さらに師匠が肩を落として画面外へ消えていったあと、徐々に照明も消えゆき、ぼんやりと『母子』が照らされるなか、観音開きの扉が締まり、作品は幕を閉じる。この岡田茉莉子演じる母の偉大さから、この映画は岡田茉莉子が主演であったと言ってもいいだろう…絵を描く2階の名取裕子にどっしり構える1階の岡田茉莉子という空間構成にも関係性が表れていた。作品を一貫する母子の主題は現代にも充分通ずる。
あと、姉の火傷の痕の演出もよかった。
昼行灯

昼行灯