レインウォッチャー

死びとの恋わずらいのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

死びとの恋わずらい(2000年製作の映画)
3.5
2022年7月、伊藤潤二氏の『死びとの恋わずらい』が米アイズナー賞を受賞!の嬉しいニュース。
漫画自体は1996年の作品だけれど、英訳版での受賞だ。伊藤氏は昨年も『地獄星レミナ』で受賞していて、どうやら近年アメリカの一部では潤二ブームが来ている。2018年のオムニバスアニメが再燃のきっかけらしい。

2023年予定のNetflixアニメ『伊藤潤二マニアック』も控え、しばらくこの潮流は続くことが期待される。伊藤氏は最近の記事等でスランプ・心身の不調を示唆するようなコメントも書かれていたため、これを機に好転することを祈ってやまない。

さて『死びと〜』は2000年に実写映画化もされている。
正直なところ漫画版とはかなり別物で、基本設定と登場人物を借りて新しいエピソードを作ったという感じ。

街角に立ち、そこへ偶然通りかかった人に自らの恋の行方をたずねる「辻占」にまつわる怪奇とミステリー。
漫画では潤二作品らしい、怪異の影響力が噂や都市伝説のように広がっていく様が描きこまれ、増幅された悩める人々の思念が町全体をすっぽり包んでしまう「霧」として見事に視覚化される。
映画版ではこの「常に霧に包まれた町」が再現されなかったのがまず残念ではあるのだけれど、そのぶん別ベクトルのサイコミステリーや若手俳優の青春描写に集中したのは、映画としてみれば悪くはない采配だったと思う。

おそらくキャストで一番目を引くのは当時リアル高校生だった松田龍平(すでに浮世離れしてる感がテイストに合っている)だろう。しかしわたしが今作を決して嫌いになれない一番の理由は別の人物にある。
三輪ひとみ様である。

ホラーや特撮畑を活動の中心とする女優さんであり、かつ主役を張ることも少ないため、お茶の間浸透度は絶望的と言わざるを得ないだろう。
しかし90〜00年代の日本サブカル映画界を支えた存在であり、何よりわたしは日本史上一の「超薄幸顔美人」であると信じている。当時はまだ「ヤンデレ」というワードもない時代だけれど、彼女の佇まいはその原初モデルの一例だった…と思う。

今作における彼女の登場シーンは、後半の5分間そこそこしかない。
しかしそれだけでこの映画の「ホラー」要素を一身に背負い、美しく消えない強烈な印象を残す。この5分があるだけで、この映画を永遠に忘れることができないのだ。

『富江』シリーズはじめ、映画化された潤二作品はいくつかあるが、なかなか彼の鋭く繊細な線で描かれる美しさと哀しさ、つまりは「幽玄」を三次元に再現せしめた女優さんは少ない。ひとみ様はその数少ない1人であると思う。(※1)

このブームに乗っかって、また「潤二×ひとみ」コンボが観れないだろうか。アニメももちろん楽しみだけれど、そろそろ今の技術でガチの実写化を作ってみても良いじゃない。
今夜あたり霧深い辻に立って、実現するか占ってみようかしら。

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※1:『富江アンリミテッド』の仲村みうも好き。ベスト富江。