イランの著名な映画監督マフマルバフの名を騙り、ブルジョア家庭からお金を騙し取った罪で逮捕された男。雑誌でこの記事を読み関心を持ったキアロスタミが、裁判の様子をドキュメンタリーとして撮りながら、実際の当事者をキャスティングした再現映像、さらにはドッキリカメラ的な結末もつけて完成させた異色の作品。
雑誌記者がレコーダー持ってなくて近所から借りるためにインターホン押しまくる冒頭で爆笑…大丈夫かこいつ。
裁判の映像はおそらくドキュメンタリーなんだと思うが、普通にキアロスタミが公判中に被告に質問しててびっくりした。
孤独と貧困で身動き取れなかったサブジアンが、ささやかな現実逃避のためについた嘘。自らの嘘が善良な家族に（この家族の中にも映画芸術に憧れている無職の青年がいるのがいい）受け入れられたことで、救われるが、やがて自らの嘘に依存していく。サブジアンの愚鈍だが素朴な人間性がおかしくも、悲しく、そこに向けられたキアロスタミの視線が優しい。
最後に登場し、粋な役回りを演じるマフマルバフ監督もかっこいい。実際はキアロスタミの意図を超えて、なにやら説教めいたことをたくさん話していたそうだけど、幸か不幸か録音が途切れ途切れで不完全だったというトラブルも含めてなにやら出来すぎた作品である。
