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祭りの準備のHKのネタバレレビュー・内容・結末

祭りの準備(1975年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

『竜馬暗殺』などの黒木和雄監督によるATG作品。キャストは江藤淳、馬渕晴子、ハナ肇、浜村純などなど

田舎の信用金庫の外勤係を務める男が、シナリオライターになるために東京に上京して身を立てることを夢見るのだが、浮気性の父親と別居している母親に束縛され中々発つことが出来ないでいる。彼にはただ一人片思いしている女性がいるのだが、彼女は政治運動に夢中であった。…

田舎の閉塞的な空間からとにかく出たいという切望と焦燥感、そんな村での生活によって次第に堕落しかける一人の青年が、ついにこの田舎からの脱出に成功するまでの物語を群像劇を通じて活写する。黒木和雄によるATG映画。

映画内では嬉しくない土着的な田舎のお婆さん等によるキャットファイトを拝むことが出来るが、おっぱいが見えたろうがそこまで嬉しくはない。

ATG作品であるために、所々アート映画的な意味のないながらもどこか魅了されるそんな描写がる。特に印象に残るのは曳き船がクロスするところだ。あそこの美しさは何とも言えない。

登場人物は男側は主人公も彼らと血のつながりがあるせいか、誰一人として真面な人が居ない。特に隣人の三角関係のうち、原田芳雄含めて碌な人間がいない。

そんな中、東京から帰ってきた桂木利江が完全にらりっていた。男たちの慰め物にされてしまう所での彼女のどこか子供っぽい演技が溜まらない。浜辺での例の出来事はそのおぞましさや陰湿さというのを空や海の情景によって見せているためにそこが素晴らしかったです。あそこで主人公の闇の部分をメタ的に表現しているようにも思えたり。

物語自体は特段ドラマチックな要素はないのであるが、主人公周りの人間が真面でなく、主人公も思春期ゆえの性の目覚めから一種の戸惑いの様子を帯びているために、見ている人間たちは次第にそんな戸惑いの主人公に共感していく。

特に、桂木利江と正式に結婚予定をしていたのに、彼女が出産後に正気に戻ってしまったが故に嫌われて結婚も反故にされて自殺してしまう浜村純があまりにも可哀想であった。ここが一番救いがねえや。

そんな性倒錯の戸惑いと田舎の嫌な雰囲気、母親からの束縛から次第に堕落していって酒におぼれてしまう主人公を見ると、当時のシラケ世代が感じていたデカダンス的なものを感じ取ることが出来る。

しかし、そこからついに最後の最後で脱却することができた列車のシーンで、お見送りするのが一番真面じゃない原田芳雄というのも何とも言えない。あそこでの爽快感は、ロベールブレッソンの映画やトリュフォーの映画にも通ずる。どうしようもない空間からの解放のようにも見える。

芹明日香はやはりこういう映画でも芹明日香だが、やはり彼女はこんな世界でもゴーイングマイウェイをしている貫禄があるためにすごい見応えがある。

竹下景子演じる涼子は当時の強がりな女性を演じているのだろうか。しかし、最後の最後で江藤をセックスに誘うのだが、火事になってしまうのが災難であった。

こういう不幸な出来事の断片を敢えて連鎖的に示すことによって物語的ではなく視聴者に不安感やら焦燥感を募らせるのは見事としか言えない。それゆえのあのラストの解放感なのかもしれない。

いずれにしても見れて良かったと思います。もうちょっとATG作品見てみたいな。
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