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ハメットのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ハメット(1982年製作の映画)
3.4
 1928年、禁酒法時代のサンフランシスコ。坂の上に住む男は一人黙々とタイプライターに向き合っていた。外では子供たちが遊ぶ賑やかな声が聞こえる中、昼夜逆転で創作に励んだダシール・ハメット(フレデリック・フォレスト)は、「ブラック・マスク」誌のための短篇小説を書き上げる。タバコを燻らし一息ついただろうか?空が白みだしたところで男はベッドに横になるつもりが、そのまま深い眠りについてしまう。かと思うと次の瞬間、男は熱にうなされたように洗面台の前で嘔吐するのだ。小説の中で私立探偵は、ファム・ファタールのような美女と行動を共にするのだが、やがて靄に包まれ、足元は水に侵される。決まってこの夢にうなされた男はふらふらになりながら寝床に戻ろうとすると、かつての仲間ジミー・ライアン(ピーター・ボイル)が原稿を読んでいた。ハードボイルド小説の始祖として名高いダシール・ハメットは、かつてライアンとピンカートン探偵社で同僚だった。映画は彼が探偵社を辞めてから、小説家として徐々に頭角を現す前の出来事を描いている。現実でハメットは小説そっくりの事件に巻き込まれていくのだが、小説とはそのディテイルが微妙に違うのだ。

 ノワール・サスペンスというと真っ先にモノクロ映画を想起するが、今作はなぜカラーだったのか?本来ならば光と影とで表現される陰影はうまく機能せず、かって知ったるロビー・ミューラーではなくジョセフ・バイロックとの撮影は意思疎通の面で相当厳しかったに違いない。そもそもコッポラ自前のスタジオであるゾーイトロープ・ロス・スタジオで全てが完結する撮影に、ヴェンダースは最後まで馴染めなかっただろう。これまでのヴェンダース映画というのは幽閉された空間から主人公が、A地点からB地点へと移動を試みた。ヴェンダースの推進力が外へ外へと向かっていたのに対し、コッポラは自前のスタジオで全てが完結する箱庭的世界へと私財を全て投資していた。そもそもの地点から、コッポラとヴェンダースとではアプローチの仕方から全てのベクトルが違っていたのだ。今作を呪われた映画とする理由に関してはこれまで散々語り尽くされて来たので、今更語ることもない。だが改めて映画を丹念に観てみると、不慣れな環境でヴェンダースは善戦している。いかにもセット丸出しなチャイナタウンでの黒い影の伸び方。前半こそ唐突に物語が始まる印象は拭えないが、6人の権力者の闇を剥ぐ後半の展開は実に良く出来ている。中国女を演じたリディア・レイはちっともファム・ファタールに見えないのだけど、コッポラの無茶な注文の中に何とか自分らしさを出そうともがき苦しんでいる。
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