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ハメットのもりのレビュー・感想・評価

ハメット(1982年製作の映画)
5.0
鏡による内省と、窓ガラス越しの覗きが生む見る見られるの関係。ヴェンダース映画に特徴的な鏡とガラスのモチーフが『ハメット』では特に有機的に用いられている。元来キネトスコープは我々に世界を覗き見させるものだった。
探偵小説作家は、過去の内省と覗き見的距離から執筆をしている。ヴェンダースの映画の主人公に特徴的な、消失点を埋め合わせる何かを求めた放浪の図式は、ここでは小説と現実の齟齬、過去と現在の狭間にある。覗き見的な立場の主人公が、過去の世界に介入した時、原稿は水に濡れて、小説と現実は違うと気づく。
西部劇のような音楽の使い方、床屋のシーンなどアメリカ的な表現が、過去/現在(過去が未来につながったりもする)、意識/無意識を横断するモンタージュの中に溢れているのは、謙虚で大きな円環を描く倒錯ぶりと言える。
なんと言ってもタイプライターをうつだけのシーンがこんなかっこいいとは。『裸のランチ』のせいでタイプライターは蟲になってるくらいじゃないと映画で使えないとばかり思ってた。
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