映画漬廃人伊波興一

ハメットの映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

ハメット(1982年製作の映画)
3.5
ひとりのドイツ人映画監督がアメリカ映画という名の墓標に供えた花は、いまだに枯れることなく、陰日向でそっと咲いているようです。
ヴィム・ヴェンダース『ハメット』'

真っ黒な画面にギターの弦を何かに擦らせたような不思議な不協和音が重なり、いきなり赤く大きなタイトルが重なった瞬間、あっという間に自分が草木一本生えていないような果てしなく続く乾燥地帯に置き去りにされている。
こんな情景から約二時間半後に観ていた自分が程よい温度で濡れた泪(なみだ)に浸っていた事など、誰が、どのように想像できた事か?

高校生の頃に体験した、文字通り新しい映画体験への開幕。
そのタイトルがヴィム・ヴェンダースの『パリ、テキサス』でした。と、今更申し上げるのもいささか気恥ずかしい限りです。
そのヴェンダース監督の『ハメット』を約30年ぶりに観ました。
この作品が途方もない傑作であるわけでも、観る者に抑圧をかけるような野心作でもなく、ましてや私自身が、この作品で描かれているような世界を懐かしめるような世代でもないにもかかわらず、当時と何ら変わらぬ(郷愁)にも似たと不思議な想念を感受しました。
先代の偉大な異国映画人たちを(天使)と崇めた、ドイツ映画人・ヴェンダースがアメリカ映画という墓標にそっと供えた花はいまだに枯れてなかった事を率直に喜んでおります。
カサヴェテスが亡くなり、90近くなったイーストウッドもさすがに老齢の地に達しつつある今こそ、その花を満開にさせるように(ハリウッド映画でなく、これが真のアメリカ映画だ‼️)と思えるような、どなたかの新作を観たいものです。