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地獄の警備員のMASHのレビュー・感想・評価

地獄の警備員(1992年製作の映画)
3.5
黒沢清監督の初期作品。若き頃の松重豊が元力士のサイコな殺人鬼を演じたという、もうこの時点で色々すごい映画。だがその設定だけでなく、クラシックホラーを思わせる設定や撮り方、どこか悪夢のような雰囲気、低予算ながら創意工夫に富んだ演出の数々。監督の才能が既に発揮されている作品。

また、単なる娯楽としてのホラーに映画に留まらず、バブル期という時代に対する考えも内包されているのも興味深い。松重豊演じる殺人鬼より主人公の同僚の方が気味悪く描かれているのが、この監督のこの時代の捉え方を表しているのではないだろうか。男性社会での女性蔑視や芸術の価値を金でしか測らない人々など。観客の嫌悪を煽るのがモンスターではなく人であり、むしろモンスターに共感する部分を描く。そういう意味では『フランケンシュタイン』なんかに近いかも。

ただ、他に比べインパクトに欠ける主人公の演技のせいで、孤独な主人公と殺人鬼の共通点という大きなテーマに対しいまいちピンと来ない。また、100分未満の作品にも関わらず、どこか冗長にも感じてしまう部分も。まぁ僕がスピード感もある映画が好きということもあるので、好みの問題かもしれない。

全てがうまく行っているとは言えないが、日本のホラー映画と海外のクラシックなホラー映画を掛け合わせたような存在感は、この映画を唯一無二のものにしている。閉ざされた空間で人殺しの警備員から逃げるというシンプルなプロットから、ここまでユニークなものになるとは。黒沢清監督の他の作品も観たくなってきた。
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