半兵衛

偽の売国奴の半兵衛のレビュー・感想・評価

偽の売国奴(1962年製作の映画)
4.0
第二次世界大戦を背景にスウェーデン人の主人公が、たまたまドイツと取引をしていたことからブラックリスト入りされ新聞に載ってしまう。そしてその事をイギリスの諜報部に付け込まれて、ブラックリストの解除を条件にドイツでのスパイ活動を強要される…。

何の取り柄もない単なる商社マンの男が無理やりスパイにされ、心を鬼にして親友を騙してスパイの仲間にしたり危ない橋を渡って情報収集に励む甲斐甲斐しい姿に胸を打たれる「スパイはつらいよ」。しかしどんなに頑張っても敵国にいる以上自分の身は自分で守るしかないし、また自分が収集した情報が原因で重要拠点が爆撃されその近くにいる一般人が巻き込まれ死亡していく様を直視せざるを得なくなる。主人公はナチスの暴虐を目の当たりにしてスパイの意義を見いだし何とか自制心を制御するが、同じ連合国スパイのヒロインリリー・パルマーは報われないスパイの仕事にストレスを感じて疲弊していく様は切ない。

ナチスのゲシュタポに目を付けられ、追い詰められていく主人公が敵の目をかいくぐりストックホルムまで逃亡する後半はどうなるかわからない緊張感とサスペンスに満ちていて一気に目が離せなくなる。人まで殺し、見ず知らずの反ナチグループに手を貸してもらい、時にはナチス関係者と遭遇したりするなど本当に大丈夫なのかという疑念が頭をよぎる主人公の焦燥感もサスペンスを盛り上げる。

中盤ドイツにいる主人公のいる建物に飛行機のプロペラ音が大きく鳴り響くことでドイツに爆撃機がしょっちゅう来ていることを示唆したりなど全体的に音の使い方が巧み。それと現地ロケの多用がセットとは違う生々しい空気を画面にもたらしている。

二時間半近くも時間があるので見るのに足踏みしそうになるが、緊張と緩和の配置が絶妙なので飽きることなく最後まで見ることが出来る。あと主人公のウィリアム・ホールデンが誠実な人間なのでどんな状況でもスパイよりも人間であろうとする彼の姿勢に共感を覚える。そんな彼が信念を貫いた末のラストに感銘を受ける。

ラスト近くに登場する、意外な役で登場するクラウン・キンスキーの弱々しい姿は貴重かも。あとナチスの教育方針に忠実な子供が主人公の敵となって立ちふさがる展開はこの作品ぐらいでは。
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