海

コンタクトの海のレビュー・感想・評価

コンタクト(1997年製作の映画)
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幼い頃、星を見に走らせた車の中で、母はよく、わたしが生まれたばかりのころの話をしてくれた。途中でうとうとしても、ずっと母は続けてくれて、でも目を開けたらそこで終わってしまう気がして、ずっと目を閉じて、眠ったふりをしていた。 雨が降っている日だった、電車に揺られて、映画を三本も続けて観て、疲れきって深く眠り込んだ。夜中にふと目をさましたら、となりで眠っていたあなたが、わたしの髪の毛をそっと撫でてくれていた。すぐそばの窓からは夜通し車の走る音が聴こえていた。そのどれかに乗っているのは、あのとき耳をすまして母の話のなかをただよっていたわたしかもしれなくて、そして今でもまだわたしは、誰かの、海のように深くて、宇宙のように絶え間のない、愛のなかに居る。「神さまは愛する人の瞳の中に住んでる」はじめてこのことばに出会ったときに、自分の中にも信仰があることを、わたしは知った。ほんのささいなことで、何か大切なことを思い出すとき、涙がでてしまう。そのとき、わたしは確かに観ている。確認できないはずの愛を観ている。生も死も、神さまも、ことばや、記憶や、選ばれることのなかった未来までもを、観ている。わたしが観ているそれが、たとえまぼろしであろうとも、存在には観測者が必要で、やがて朝が来て、星はみえなくなってしまおうとも。そのときだけは真実に成る。遠い雲間を縫う炎は血の流れに似ていた。この世にあるすべてはつながり続けてここに在り、わたしたちは決してひとりではない。
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