ミシンそば

ウェディング・バンケットのミシンそばのレビュー・感想・評価

ウェディング・バンケット(1993年製作の映画)
3.7
スクリューボールコメディのようでありながら、切り込む題材自体は新しく、家父長制や中国の結婚における古き悪しき因習などをやや意地悪く描いた、極上の「居心地の悪さ」を味わえるアン・リー初期作品。

アメリカに帰化したゲイの青年 偉同と、アメリカ人の同性の恋人 サイモン、グリーンカードが無くて強制送還一歩手前で、偉同と偽装結婚する女性 威威、そして台湾からはるばるやってきた偉同の両親。
主要人物はこの5人を軸に展開され、奇妙な偽装結婚によって生じた「これまでの瓦解」によって、3人それぞれ角度が違う「居心地の悪さ」にずっと襲われることになる。

「居心地の悪さ」の中での彼ら、彼女らの距離感が絶妙。
特に両親が来て間もないころのサイモンが自然と距離感を取ってる感じが凄まじくいい。
発案者はサイモンだけど、それでも次第に嫉妬で苦しむこととなる人の心の儘ならなさから始まり、威威の感情の振れ幅も次第におかしくなり、伝わる波紋は両親にも自然と波及する。
まぁ、地獄のような「居心地の悪さ」は終盤には凪ぎ、最後はさっぱりとした後味を残して終わる。

古いフォーマットを用いて、今の時代にも通じる「人と人との関係の新しい形」と言う定義をぶち上げた感じだろうか。
アン・リーは長編二作目にして、水と油を死ぬほど強く攪拌して、混ざらせて見せた。