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0(ゼロ)からの風のodyssのレビュー・感想・評価

0(ゼロ)からの風(2007年製作の映画)
2.0
【残念。田中好子さんが気の毒】

実話が元になっている映画だそうです。
私は、田中好子さんが好きだからというだけの理由でBS録画で鑑賞。

で、思ったのは、この映画が2007年に制作されながら、その存在について私はBSで放送されるまで知らなかったし、私の住む地方都市では上映されなかったし、さらにここでの書き込みの少なさから判断して全国展開に至らなかったのには、それなりに理由があるのでは、ということでした。

まず、映像に魅力がない。これって映画なんだろうか、テレビドラマじゃないの、というくらい映像が平板。
この監督が撮った映画、本作以外には見ていないんですが、こんな撮り方しかできないんじゃマイナーな存在止まりで当たり前だなと思いました。

次に、脚本や進行ですが、社会派ドラマなのか、息子を理不尽な交通事故で殺された母親の怒りや生き方がメインなのか、その辺が曖昧。

もし社会派ドラマだとすると、危険運転で肉親を失った人たちが厳罰化を求めて署名運動を始め、テレビ局もそれを積極的に報道するところまではいいけれど、そのあといきなり国会の委員会になるのは中抜けが過ぎます。世論が盛り上がって国会議員も無視できなくなるあたりも入れないといけないし、遺族には法律の専門家による助言も必要だったのではないか。

またテレビ報道にしても、まさか一人の社員の一存で報道が可能になるわけはないでしょう。テレビ局内部の事情が抜けている。社会派ならそういうところも地道に脚本に取り込んでいかないと、見ていてうなずける作品にはなりませんよ。

また、母親の怒りや生き方がメインだとすると、ちょっと息子に入れ込みすぎなんじゃないですか。厳罰化の法律を制定させるところまでは分かりますが、息子の入った大学に自分も入るってのは?? そもそも、夫を病気で失って母子家庭だったために、息子が母親を名前で呼ぶなど母子癒着の匂いがするのに、その息子まで失うことで、母親としてはある種の歯止めが利かなくなったような感じです。いや、実際に母子家庭で息子を危険運転で事故死させられた母親がそうなるのは分からないでもない。でも、映す側は彼女の「狂気」をちゃんと見据えないといけないのではないか。

また、息子は文学部に入っているのですが、そうでありながら母親は息子が何をやりたかったのか分からないというのは、ちょっと「?」ですね。だって法学部や経済学部とは違い、文学部ってやりたいことをやるために入る学部でしょう。これほど仲良しの母子なのに、息子が大学で何をやりたかったのか知らないって、あり得ないですよ。脚本のお粗末さが露呈している。

この映画で唯一面白いと思えたのは、袴田吉彦演じる加害者です。事故の直後に偶然警察で母が彼を至近で目撃するのですが、そのときの表情のエグさ、そして刑期を終えて被害者宅を訪れて涙ながらに謝罪するけれど、そのあとはまた行方不明に。犯罪者ってこういうものだろうな、と納得させてくれました。ただし、被害者宅を訪れるまでには途中手紙で謝罪するとか色々予備的な行為の積み重ねがあるはずなのでは、という疑問がわきました。まあ、これも脚本のお粗末さで、俳優が悪いんじゃありませんけれどね。

なお、類似のテーマで作られた映画として『誰がために』(2005年)がありますが、そちらのほうがこの手の映画としてははるかによくできていると思います。
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